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末っ子皇女は幸せな結婚がお望みです!  作者: 玉響なつめ
第十六章 それはじわりと染み込む毒

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 つまり、まあ、そういうことなんだろう。

 父様の過保護なのか、私の結婚……つまりこの婚約者たちとの関係は、どうあったって幸せになる以外許されないっていうか、重たいな愛が!!


(でも普通の親なら、まあ、我が子の不幸なんて願わない? よね?)


 幸せになってもらいたい、できる限り苦労せず、愛し愛されて笑って過ごせるような暮らしをして欲しいと願うもの……だと思う。

 少なくともそれは、前世の私がそう(・・)思ってもらいたかったことであり、今世で兄たちに願うことであり、大人同然の思考を持つ自分なりに〝自分に子供ができたと仮定して〟考えた結果だ。


 だからこれも父様の愛だと思えば感謝しかないよね!

 ……とはいえ、娘のために婚約者候補たちを試すような真似はどうかなと思うけど。


 あくまでこれは私の予想でしかないけど、エルヴェは婚約者候補たちとちょっとした会話をしている中で彼らが当たり前だと思っていることについて、何かつっついたんだと思う。

 それこそ、私と話している時のように、些細な感じで。


 そしてそれは私にとっても、彼らにとっても『言われてみれば』で改めて考えざる得ないような、そんな感じじゃないだろうか?


(何を言ったのかとかはわかんないけど……)


 そして人間、自分の弱いところを突っつかれるのはやはり不快だ。

 私は私が精神的に弱い人間であると理解しているから、それを指摘されると『そんなことない!』って言いたくなる。


 きっとそれは他の人だって同じだと思う。

 そうだよね? 私だけじゃないよね!?


 で、多分だけどその……言われたくなかったなって部分を他人から指摘されると嫌な気持ちになると仮定したなら、サルトス様やフォルティス様がエルヴェに対してあからさまに警戒しているのも理由がつくっていうか……。

 あの穏やか代表選手みたいなピエタス様までもがそんな感じなんだから、エルヴェって相当突っつくのが上手いんだろうなあ。


「……ちなみに、何したの」


 答えてもらえるかどうかわからないまま、問うてみる。

 エルヴェはその質問が予想外だったのかキョトンとしてからにっこりと笑った。


「……知りたい?」


「えっ」


「ゴシュジンサマは俺が答えないと考えて質問しないって思ってたんだけど。知ったところでどうにかなるわけじゃないし?」


「それは……」


 確かに、ただの興味本位でしかないけど。

 ついでに言えば答えてもらえないかもしれないってわかっていて、なんで私は質問したんだろう?


 本当にエルヴェといると、自分でもよく分からない気持ちになって戸惑うばかりだ。


「俺はアンタたちの鏡なんだよ、ゴシュジンサマ」


 優しい笑みを浮かべたエルヴェ。

 男の子に対して言うのは間違っているかもしれないけれど、その可憐な容姿と相俟ってまるで絵画に描かれた天使に見まごうほどだ。


 だけど、彼の口から出てくる言葉は私の、私たちの心に不安や疑念の影を生む。

 まさしく毒のそれによく似ていた。


「だから知りたいってアンタが言うなら、俺は答えるよ。だって俺はゴシュジンサマのイヌだからね」


 クスクス笑って、エルヴェが朗らかに『わん』とわざとらしくイヌの鳴き真似をした。

 でも可愛らしいはずのそれが、私には今にも襲いかかる前の猟犬に見えて、思わずソレイユを抱きしめる腕に力を入れるのだった。

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