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末っ子皇女は幸せな結婚がお望みです!  作者: 玉響なつめ
第十六章 それはじわりと染み込む毒
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 エルヴェが護衛についてから、私はある程度わかったことがある。

 襲撃があったのか、それはどんな相手だったのか……父様、兄様たちや護衛騎士たちだったら言葉を濁したり誤魔化すであろうことも、エルヴェは基本的に何でも喋る。


 それはあくまで賃金が出ているのが帝国の皇室だとしても、私が(・・)主人として彼に認識されているからだ。

 ちょっとこれがややこしいのだが、彼を雇ったのは帝国の皇室……つまりまあ有り体に言って父様だ。

 繋いだのが伯父様だ。


 だけど、彼と期間限定とはいえ主従契約……名付けを持って契約としたのは私である。

 そのためエルヴェとしては私の命令以外を聞く必要はないし、なんだったら暗殺だろうが知られたくない秘密だろうがいくらでもやるからいつでもどうぞ! なスタンスなのである。


「あれだろ? 婚約者候補たちの弱みとか、性癖とか……」


「ちょっ、まっ」


「? 女性遍歴とか閨教育の進み具合とかも調べられるぜ?」


「そんな無垢な目でとんでもない発言しないで!!」


 確かに男女間では大事なことかもしれないけど、しれないけども!

 なんだろう、そんなもん清いお付き合い前(?)から知ってはいけない話じゃないのか……?


 口説き落としたい相手の情報を調べる場合、ご令嬢たちはみんな通る道なのか……!?


(いやそんなことねーわ!!)


 思わず心の中とはいえ言葉が乱れてしまった。

 ううーん、エルヴェとの距離がいまだによく分からない。


(……悪い子、じゃあないんだよなあ)


 自分の職務に忠実で、契約主に対して配慮もある。

 ただその配慮がちょっぴりずれているっていうか……彼なりに気を遣っているのはわかるんだけども……。


 おそらく私にとって物事が有利になるための情報、それを持たせようとしてくれていることはわかる。

 わかるんだけども。


「あのね、エルヴェ。私はまだ婚約者候補たちとの関係を築いている最中で」


「うん」


「言ってしまえば私が選ぶ側だから、相手の弱みを握るとかそういうのは必要ないの」


「……うーん、でも性癖とかそういうのって相性あるだろ?」


「いやまあそうかもしれないけど、私まだ十才だからね!?」


 言いたいことは(一応)理解できるけど!

 前世の記憶分プラスで侍女たちから借りた恋愛小説(ちょっぴり大人向け)で理解はしているつもりだからさあ!!

 いやでも確かに特殊性癖あるって言われたらそれはそれでハードル高いな?

 普通の恋愛でもハードル高いのにとんでもない性癖を持ってますとか結婚後に告白されたら私どうしていいかきっとわからなくて固まっちゃうな?


 そういうのに対して覚悟を決めるかそれを理由にゴメンナサイするってのは確かにあり……だな……?


「……判断に決めかねる時の最終手段……?」


「りょうかーい」


 にっこにこ笑顔のエルヴェは本当に善意というか、普通のこととして私にそれを進言しているのだろうけど、なんだろう罪悪感が……ッ!

 何でも調べられそうなポテンシャルを持っているっていうのがこれまたね、よくある愛憎劇なんかで浮気相手を抹殺しようと雇った暗殺者がエルヴェだったらあっという間に『任務完了』とか言ってそのままロマンスになだれ込みそうな……って私は何を考えているのか。


(あれ、待てよ)


 婚約者候補たちの情報を調べるのだって、彼らにはある程度水準を満たした護衛たちがついているわけで、つまり一般の人に比べて調べにくい相手とも言えるわけで……?

 それを軽ーく『調べられるよ!』っていうエルヴェの能力は疑うまでもないわけで。


 ということなら、他にも調べたい放題なのでは……?

 少なくとも私との契約関係があるうちはお願いし放題なのでは……!?


(えっ、これ私とんでもない切り札を手に入れたのでは?)


 思わずエルヴェを見る私に、彼はニッと片側の唇の端だけをつり上げるようにして笑った。

 片手で、威嚇するソレイユをいなしながら。


「俺の主人(あるじ)は察しがいいなあ。そうだよ、護衛だけど俺はアンタの手足になれる。そこに気付くかどうか、俺が従いたいと思うかどうかはこれから(・・・・)さ」


「ひぇ……」


 エルヴェ怖い。

 やっぱ怖い子だ。


 思わず慄く私に、彼は笑みを深める。


「でも、ま、今のところ俺は貴女に忠誠を誓っていますので、お好きにどーぞご命令を? 我が君」


 甘ったるい声で、優雅なお辞儀。

 私は改めて思うのだ。


 とんでもない切り札なんだろうけど、諸刃の剣ってこういうタイプのことを言うんだろうなあ……って!

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