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末っ子皇女は幸せな結婚がお望みです!  作者: 玉響なつめ
第十六章 それはじわりと染み込む毒
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 エルヴェが私の専属執事になってから数日。

 婚約者候補たちは面白くなさそうにしていたものの、彼の存在を受け入れていた。


(っていうかそつなく何でもこなすこの子、こわぁい……)


 私の後ろに常に控えつつ、振り向けば可愛い笑顔を向けてさも『皇女様を慕う使用人』らしさを見せるエルヴェを疑う人はいないだろう。

 そのくらい彼は自然に溶け込んでいる。


 まるで、ずっと前からこの城で働いていたみたいに打ち解けて、私に憧れていたから執事になれて嬉しいと本気で思っているみたいに見えるのだからびっくりだよね……!

 しかも執事の仕事、ばっちり決めてくる上に時々可愛らしいミスまでして見せて、年相応の見習いを演出するところまでバッチリですよ……!

 やるな、こいつ……!!


「はぁー肩凝ったぁ」


「きゅ?」


「おーソレイユ、飴やろうか!」


「ちょっと、あんまり晩ご飯前にオヤツあげないで!!」


 エルヴェが来てくれて良かったことは、デリアの自由時間が増えたことだ。

 他にも父様のところから侍女たちが手伝いに来てくれていたとはいえこれまで私の専属侍女として、朝から晩まで働いているワケで……。


 それこそ専属侍女だから、よっぽどのことがないとお休みもしないんだよね。

 一応、私に公務などの予定がまるっとない日に『お出かけとか一切しないから休むように』とは言うんだけどね。

 デリア自身が自分は専属侍女なんだから休む気はないとか言われた時にはどこのブラック企業にお勤めで……? ってなっちゃったよね。


 まあ無理にでも週一は必ず休んでもらってるんですけど!

 本音を言えば週二でお休みとって!!


 という状況だったので、私としても『エルヴェがいるから大丈夫』って言えるようになったのはありがたい。

 勿論、着替えとかそういうところは他の侍女さんたちにやってもらうけども。

 専属執事ってことで、デリアもぐぬぬってしつつ『そういうことなら……』って休みを受け入れてくれるようになったのは本当に感謝している。


 している、けども。


「外面と本性のギャップが凄すぎてついていけない……!!」


「おっ、我が君ってば俺に惚れちゃう感じ?」


「それはない」


「ふはっ、即答ひでぇ!」


 それはないわー。

 エルヴェは何が面白いのか楽しそうだ。


 専属執事になったエルヴェは、完全プライベートな私の部屋の中に入ってくることができる立場だ。

 護衛を兼ねているのだし、専属執事だから当然と言えば当然。

 そして他の使用人と違って専属の特権は、主と二人きりになってもノーカウントってところかな。


 王侯貴族は異性と二人きりになるにしても、使用人を傍に置くか扉を開け放つのが慣例だ。

 それは異性間の不純交遊が行われていませんよっていう証明のため。


 でも勿論、誰だってプライベートは大事でしょ?

 だから基本的に同性の使用人を置くようにして、自室には人を入れない……ってのが無難なところ。


 でも立場が高くなればなるほど、身の回りの世話や護衛を兼ねて〝専属〟が置かれる。

 その専属は性別関係なく主の補佐をする役割を担っていて、世話を焼くだけでなく秘書官的な役割、護衛として……というか肉壁的な方向での護衛ね、そんな役割を担っている。

 そのため主人のプライベート空間に二人きりになることが許されていて、ぶっちゃけ人間としてカウントしていないっていうか、空気みたいな?


 というわけでエルヴェも私の部屋に足を踏み入れることができるのだ。

 そして私の、皇女の部屋ってのは防音性に優れた皇族専用のお部屋の一つ。


 空間一つ隔ててドアを閉めると、獣人族だろうと音が聞こえにくくなるっていうから普通の人間だと聞こえやしない。

 そのため、エルヴェもこの部屋では自分を偽ることなく延び延びと過ごしているというわけだ。


 まあそれはいいよ、本業は暗殺者なのに私の護衛として品行方正に振る舞うのだって疲れると思うしね?

 それにしたってだらけ過ぎやしないかな?


(……ソレイユが敵認定していないのも珍しいよね)


 エルヴェの実力を、私はまだ知らない。

 だけど父様が推薦してんだから強いことは確かだ。


「ねえエルヴェ、暗闇の民について聞かせてよ。もし私に近づいてくるとするなら、その人たちはどういう特徴があって、どう気をつけたらいいのかとか……」


「聞いたところで何かできるわけじゃない。我が君も、あの婚約者候補たちも、ただ普通に過ごしてくれてりゃそれでいいさ」


 私の問いかけに、エルヴェは笑う。

 そこには悪意も嘲りも、何もない。


 とても綺麗な笑顔だ。


「余計な首を突っ込まない。それが一番いいんだ」

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