152
とりあえず私はエルヴェのことをみんなに知らせることにした。
といっても北方にある犯罪者大国(?)、一応彼らは自分たちのことを暗闇の民と名乗っているらしいんだけど、そこ出身であることは伏せた。
絶対……絶対難色示すよね!
でもこれ決定事項だからさあ!!
「というわけで、護衛を兼任したエルヴェです。これから私と一緒に行動することが多くなるから、みんなも覚えておいてね」
「エルヴェと申します」
薄いピンク色の髪を揺らして礼をとるエルヴェは、パッと見たところどこかの高位貴族出身と言われても遜色ないほど優美な所作をしている。
だから〝カメリア〟出身の暗殺者だなんてバレないとは思うけど……。
(みんな勘がいいからなあ)
いや別にね? 事情が事情だし?
ある程度……ほら、寵児とかなんかよくわかんないことも情報共有してるしね!?
ここにもう一つ二つ加わっても多分……いいと、思うんだけど……。
(……追加の婚約者候補になるかも、なんてことは言えないな……)
まあ私自身がこれ以上選択肢を増やされても困るっていうか。
むしろ今でもいっぱいいっぱいなところに厄介な話が飛び込んできてこの凡庸な脳みそはパンク寸前なんですけどもいったい全体私にどうしろってんだこんちくしょうめ!
皇女らしい優美さ?
脳内でくらい文句を垂れ流したっていいじゃないのさー!!
「……侍女じゃなくて、執事なの?」
「侍女はデリアがいるので」
「み、み、見たところ、そ、その、随分、お、お若い……で、ですね?」
「長く仕えるためにも同じ位の年頃から傍につかせるのがいいだろうって父様が仰るので」
「護衛を兼任しているという割りには随分と小柄だな?」
「何かあった際に私を連れて逃げることが優先ですし」
「……ずっと? ニアと? 一緒に? いるってこと?」
「ちょっと落ち着こうかユベール」
なんで君だけ闇落ちキャラになりそうなのよ?
全員、不満ですって顔にめっちゃ出てるのそれどういう感情!?
「いやあ、我が君は愛されてますねえ。……これは面白そうだし名乗り出ても良かったかなあ」
「エルヴェ、燃料投下しようとしないで?」
ぼそっと私にだけ聞こえるようにそんなこと言って笑みを浮かべるエルヴェは絶対に腹黒いのよね……。
もし彼を婚約者になんてしようもんなら、世界の裏を知ることになりそうで嫌だし!
なんか今も大分片足突っ込んでいる気がしないでもないけど!!
「誠心誠意お仕えしますよ、我が君!」
「……じゃあ私とみんなにお茶を淹れて。美味しいのをよろしくね」
「かしこまりました」
候補のみんなに見えるよう人の良さそうな笑みを浮かべたエルヴェが茶器を手に取るのを見て、私はこっそりとため息を吐くのだった。