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「と……とにかくですな、ツィットリア家についてはおわかりいただけたかと存じます。そのような宿命の血筋にあるゆえ、皇女殿下の幸せこそが神の願いというのもおわかりいただけたでしょうか」
「……不幸になると何かあるんですか?」
「過去には寵児が大きな憎しみを抱くようなことがあり、天変地異が起きたとか……神の雷が振っただとか、そういった伝説はありますが。ただ、真偽のほどまでは」
そこについてはさすがに伯父様もわからないらしい。
いや、調べようと思えばできるけれど〝寵児〟について探りを入れれば疑われるし、ツィットリア家のことやそこから私が〝寵児〟である可能性にたどり着くことを考慮に入れて、何もしないのが一番だと判断したんだとか。
確かに変に動かれて周囲から持ち上げられたりするのはいやだし、それを真に受けて〝寵児〟を手に入れようとかする人って出てくるだろうからそれも面倒くさいし……伯父様の判断は間違っていないと思う。
「皇女というお立場ゆえ、このたびこちらにおわす方々との婚約の話が持ち上がったことは存じておりますし、貴族であった身として理解もしております。ですが、ここまでお話いただいたことでおわかりかと思いますが幸せになっていただきたいのです」
伯父様はぐっと拳を握った。
幸せになってもらいたい、そう真剣に思ってもらえていると思うと心が温かくなるよね!
「それに神殿に籍を置いていただけたら少なくとも成人までの後見は神殿となります。幼い頃をお支えできなかった分、今こそ……妹の代わりにはなりませんが、伯父としての役割を果たしたく……!」
くっと涙ながらにそう言われ、私も思わず胸が熱くなる。
もう父様と兄様たち以外家族はいないんだなあって思っていたところに伯父が現れて、その人が私のことをこんなにも心配してくれていたんだって思ったらそりゃ感動だってするでしょ。
「伯父様……」
「皇女としての価値で婚約を決めるお人柄と候補者を断じるわけではございませんが、今すぐにそのように決める必要はありませんでしょう。残念ながら、ツィットリア家の秘密について探りを入れている者がおります。そこから身を守るためにも、皇女殿下には神殿に移っていただきたいのです……」
「でも……」
確かに十歳という年齢なのに婚約話が出るのは皇女だからこそだ。
兄様たちに相手が決まらなかったとかあれこれあったのはあくまで長兄が無事結婚するまではって感じだっただけで、皇女の私は最初からもう問題ないだろうって判断されていたから時期を待っていただけでね?
私はみんなに視線を向ける。
(確かに私が皇女じゃなきゃ、彼らとは出会わなかったわけだけど……)
私に自由がないのが可哀想ってことなんだろうか。
皇女としての責任や、あれこれはあるけどそれを苦にしたことはない。
じゃあ、このままでよくない?
「伯父様の言葉は大変嬉しく思いますが、私は何不自由なくこの城で暮らし、皇女としてこれらの恩恵をいずれは民に還元すべき立場だと理解しています。婚約者候補の四人も、そんな私を理解した上で支えても良いと考え、候補のままでいてくれていると信じています」
まあね、皇女じゃなきゃ出会えなかったんだよ。
でもそれって別にそういうもんじゃないのかな。
一期一会っていうの? あ、違う?
とにかくこれも何かの縁ってやつだろうし、それを大事にして何が悪いって話なんだよ。
(もしも私が本当に〝寵児〟なら、幸せになるために努力を重ねてるってのは悪いことじゃないわけでしょ?)
私は幸せになりたい。
そのために兄様たちや父様と仲良くなろうと誓ってその通りにしてきたし、自立したいっていう、いずれは爵位をもらって云々の目標に向かって勉強もしている。
狙われやすい?
それはそもそもどの立場になっても結局そうなら、今幸せだと思っている状況を手放す理由にはならないよね。
「伯父様、私は今、幸せなんです。でももし伯父様が姪としての私を傍で見守りたいと仰ってくださるなら出向という形でこの国に留まり、私の相談役になっていただけませんか?」
「……皇女殿下……!」
わっと泣き出した伯父様は、今は亡き母様の代わりに親身になると約束してくれた。
ちょっと途中泣きすぎて何言ってるかわかんなかったけど。
「……人誑し」
「アリアノット姫は悪い女だなあ」
「で、で、でもそこがいいところ……です!」
「まあ、俺らがしっかりしてりゃあいいだろう」
「ちょっとそこ! なんか妙なこと言わないでくれる!?」
感動が台無しなんですけど!?