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「神の寵児はその名の通り、神に愛された子……我がツィットリア家にはその寵児が生まれやすいと伝わっております。そして、突出した才を持つ者は外からツィットリア家を守る立場になれと」
「外から……?」
普通、優れた人を当主に据えて家を栄えさせるもんじゃないのか?
わざと外に出すの? だって寵児が生まれやすい家なのに?
「何故かとお思いでしょうな。確かに守りが手薄になることは危険極まりない。ですが、先ほど皇女殿下がお考えになったように多くの者が寵児とは優れたる資質を持つ者であると考えるのです」
「……」
「資質ある者がそれと知られる前に外に出ることにより、ツィットリア家は凡庸であると人々に思わせる。そして外に出た者はツィットリア家に生まれた寵児を守るために行動する」
神の寵児と呼ばれる凡庸な人間は、何故かツィットリア家の本家筋にしか生まれない。
それこそ神のみぞ知る理由があるんだろうけど、そういうものであると伝わっているらしい。
「でも、ツィットリア家は」
神の寵児を守る家なら、何故没落の道を辿ったのか。
だって外から守るための何かがあったはずなのに。
「……そう、これはまだ断定はできませんが、人為的なものでしょうな。だからこそ、わたくしはツィットリアの最後の守人として皇女殿下をお守りせねばなりません」
伯父様は才ある者として外に出た。
つまり、本来なら私の母様がお婿さんをとってツィットリア家を継いでいた。
「そもそも寵児って何する人なんです? 何故守らなくちゃいけないの?」
サルトス様がおっとりとそんな質問を投げかける。
確かにそれも気になるところ!
だって聖者と言われる人たちはそれこそ世界を救ったりしたわけで、でも寵児ってなんもできないからこそ神様に可愛がられてるって位置づけでしょ?
「先も申し上げました通り、寵児はそのまま神に愛された子。つまりただいてくれるだけで良いのです」
「え?」
「寵児の幸せを願う神の恩恵は寵児の周囲にも及びます。つまり、寵児はそこにいるだけで幸せを運ぶというわけですな」
なにその生きるご神体……!!
でもなるほど、そうなると凡庸な当主が適度に失敗したりする中でたまーに寵児効果で運が良い時なども含めて穏やかに領地運営をしつつ目立たなかったってことね……!!
でもそれがバレたら人為的に落ちぶれさせることは可能だろうし、攫ったりあれこれと暗躍した人がいて……あれ、ちょっと待って。
「先ほど伯父様は最後の守人と仰いました?」
「……さようですな。他の守人とされている人物たちは大抵神殿を通じて連絡があるのですが、どうも裏切り者がいたようで。それが誰かは特定できぬままに、守人と思わしき方々は亡くなっていきました」
「そんな……」
「わたくしめが出家するにあたり皇帝陛下とは仲違いをいたしましたが、陛下にはもし何かあれば妹のことを助けてやってほしいとお願いしておりました」
そこまで話して伯父様はふぅー……と深いため息を吐いて目を閉じたかと思うと、勢いよくテーブルを叩いた。
「しかし! あの野郎は! くれぐれも可愛い妹に手を出してくれるなとあれっっっほど言っておいたにもかかわらず! 妹を無理矢理娶ったのでございます!!」
あ、伯父様もシスコンだ。
なるほど、これは喧嘩し続けるわけだわ。
私は即座に納得したのだった。