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そして迎えたマルティレスさんとの話し合いの日。
婚約者候補たちが同席するということには難色を示されたものの、聖女となった場合は神殿に入ることになり、その場合は彼らに一番の影響があるのだからまるで無関係ではないと父様の方でごり押ししてくれたらしい。
さすがにそれについてはマルティレスさん側でも思うところがあるのか、渋々といった感じで了承が得られたとのこと。
(まあ表情にそれも出てるんだけどね!)
めっちゃ今も渋面だもん……。
眉間の皺にコイン何枚挟めるかな? って思うくらいには皺寄ってる。
(……でもこうして改めて見ると、確かに絵姿でしか見たことないけど母様に似ている気がしないでもない……?)
肖像画そのものがほとんどない第七妃、私の実母、アイナ=メロウ。
優しくて穏やかで、内向的な人だったと父様からは聞いている。
私と同じ濃い茶色の髪は、母の生家であるツィットリア家の特徴なんだろうか。
(……母様のこと、教えてくれる人はいなかったから)
優しい人だった。
物静かな人だった。
母様のことを知っている人たちが言うのは、大体がその二つだ。
没落貴族の娘だけれど皇帝の寵愛を受け、第七妃となった……というので貴族たちの間では一時話題になったという話だったけど。
シズエ先生や、当時を知る人たちの口が重くなるってことは多分だけど、あまりいい話題ではなかったんだと思う。
まあそりゃそうだよね、この大帝国の皇帝の寵愛は貴族たちなら誰だってほしいってものらしいから……それを没落貴族の娘が得たとなれば嫉妬や羨望、そういったものが集まったって可笑しくない話だと思う。
それを父様からの愛情だけを頼りに受け止めていたんだとしたら、そりゃ大人しい人なら部屋に籠もりたくなるのも当たり前じゃないかなと思うのだ。
私だったらきっと怖くてたまんなかったと思うよ!
(愛があれば大丈夫とかよく言うけどさ、それだけじゃ乗り越えられないものがあるとおもうんだよね……ないよりあった方がずっといいけども)
って今はそんなこと考えている場合じゃなかった。
マルティレスさんとの話し合いは基本的に私主導でってみんなと話し合って決めていたのだ。
「本日は話し合いの場を設けてくださりありがとうございます、マルティレス司祭様」
「いえいえ、皇女殿下とこうしてお言葉を交わさせていただける機会をいただけるだけでもこちらとしては感謝しかございません」
「……護衛の騎士たちは廊下に出てもらいました。この部屋でどのような会話がなされようと、それは外に漏れることはございません。この場に同席する私の婚約者候補たちも含め、誓いを立てることも吝かではありません」
魔法で誓いを立てる……というのはそれを破った時の罰則が大きいものとされていて、貴族たちの間では大きな取引などがある際によく使うのだ。
基本的には道具を用いて……なんだけど今回は同席しているのが全員王族かそれに連なる人たちなので、司祭の名の下に誓言するだけでも効力を持つとかうんちゃらかんちゃらごめんなさいよく理解できてません!!
まあとにかくそのくらいの覚悟を以てこの話し合いに臨んでますよってまずは言葉と態度で示さなくっちゃね!
ちなみにまあ、これ発案したのはサルトス様なんだけども。
「皇帝陛下より、マルティレス様が司祭となられる前のお話を伺いました。……私を聖女として誘致なさろうとするのは、ツィットリア家に何かしらの事情があるからですか? それとも、マルティレス司祭様個人のお考えでしょうか?」
さあ! 誰よりも堂々と!
私は聖女としてじゃなくて皇女として生きていくために、幸せな家庭をゲットするために!!
伯父さんを攻略といこうじゃないか!!