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さて、マルティレスさんが私に過干渉(?)である理由についてなんとなくわかったところで、じゃあ話し合いをしたらいいのか? っていうとそう簡単な問題じゃない気がする……。
「ってことで、みんなに相談したくて」
「だれか兄君たちを呼ばなくて良かったの? 後で何か言われない?」
「うっ……それは考えたんだけど」
ユベールに言われて私は言葉を詰まらせる。
そう、相変わらず私に過保護な兄たちが、自分たちに相談なしだなんて! って言われそうな気もするんだよなあ。
とはいえ、父様が解決して見せろって言ったのは私と婚約者候補の彼らにであって、最初から兄様たちを頼ってしまってはいつもと変わらないと思われてしまう気がする。
別に私はいいけど、彼らは私の婚約者候補っていうのとは別にそれぞれ子供扱いしないでほしいな……っていう雰囲気を最近兄様たちに対して出しているので、面白くないんじゃないかなって。
私なりの気遣いだよ!
「しかし姫の伯父だったとはな」
「表向き、籍は抜いているから伯父と姪っていうのは違うってことになるみたいなんだけどね」
そう、マルティレスさんはもう私の伯父の〝ピウス=レナトス〟ではなく〝神官マルティレス〟という別人であるっていう扱いなんだけど実際にはこの国で〝ピウス=レナトス〟を覚えている人がいるから……ややこしいな!
もういいよ、脳内は伯父さんで!!
「妹の子が不憫だから守りたいというだけであれば、皇女という身分の方が守られているように思うが」
「そうなんだよねえ」
聖女の家系に生まれた正統なる聖女、みたいな評価が私についたとして、私にデメリットって別にないよね?
いや、世界中の人を癒やして歩きたいとか魔王を倒す勇者についていくとか、そういったことを求められると困るけれども。
聖女に認定っていうのだってヴァノ聖国が……多分、伯父さんが、一方的に言ってきているだけだし。
(確かになんかよくわかんない団体? みたいのに狙われるって言われるのは迷惑だけど……それは大国の皇女って立場でも変わらないっていうか)
じゃあ、そうまでして伯父さんが自分との関係が私にバレることを押してまで聖女にしたい理由は?
語れるならとっくの昔に語っているような気もする。
「き、聞き出す方法……です、よね」
ピエタス様も私の考えに同意してくれて、伯父さんとの話し合いでどうやったらスムーズに話を聞かせてくれるだろうと頭を捻ってくれている。
その横でサルトス様がさもいいことを考えたって顔でユベールを見た。
「魔法に洗脳系ってあるけど、それはどう?」
「あれは神官のような職に就いている人には効き目が悪いし、抵抗されると相手の精神が崩壊する可能性がある危険な魔法だからお勧めしない」
「そこ、さらっと怖い会話しないで!?」
なんだ洗脳って!
そういう禍根を残しそうな方法は最初から除外でお願いしますよ!!
「……まあ冗談はともかくとして、どうしてそこまで神殿に連れ帰りたいのかって話を聞いてみるのが現実的かな」
「そうだな、守りの面で言えばおそらく神殿も悪くはないが、やはり帝国の城には劣る。これが一貴族の令嬢であるなら別だが……」
「皇女が神殿入りして帝国側にメリットは何もない。他国との関係も安定しているし、ヴァノ聖国に望むものもないし」
「し、周辺諸国で大きな争いも、そ、その兆候もない、です」
いつの間にかユベールがテーブルに大きな地図を広げて、フォルティス様がチェスの駒で状況を把握し始める。
そこにサルトス様とピエタス様が書き込みを始めて、四人は当たり前のように情勢について意見交換をし始めて……って、おおい!?
(えっ、なんで君らそんな息ぴったりなの……)
思わず唖然とする私の頭の上で、ソレイユが退屈そうに欠伸をした。