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末っ子皇女は幸せな結婚がお望みです!  作者: 玉響なつめ
第十三章 可愛いアノコ
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 サルトス様の言葉を受けて、私は動揺した。

 確かに婚約者とよりよい関係を築いていけたらいいなって思っていたのは自分だ。


 穏やかに関係を築いて、恋愛もしたいな……って、政略結婚でも相手を好きになって、好きになってもらって……って思っていたのは確かだ。

 むしろそう願っていたし、望んでいたし?


(だからそういう意味でサルトス様の言葉は、すごく嬉しいことなんだよね)


 そう、なんだよね。

 喜ばしいことじゃないか。

 ただの(・・・)政略相手ではなくて、気の合う友人とかじゃなくて、家族になってもいいって思って、私を可愛いって思ってくれているわけでしょう?


 それって素敵なことだよね?

 わかっているのだ、頭では。

 わかっちゃいるのに、なんでか少し……残念に思ってしまったのだ。


(どうしたんだろ、私)


 嬉しいと思った。恥ずかしかったけど。

 可愛いって言ってもらえて、そうやって〝好かれているんだ〟ってより実感したっていうか、とにかく気分が高揚したのは確かなんだよね。

 でも同時にそれって『もし私が選ばなかったら』の未来を想像して、そうなった時にこれまで過ごせていた穏やかな時間は戻らないってことなんだよなって思ってしまったのだ。


(なんてことだろう)


 私ったら強欲すぎないか?

 この〝誰も選ばず、ちやほやされている状況〟を歯がゆく思うのと同時にそれを望んでいたってことなんだよ!

 ずるい自分がめっちゃ出てきていたんだよ!!


 前々から! そうじゃないかなとは思っていた、思っていたけど再確認しちゃったよね!!


「ぐう……」


「だ、大丈夫、です、か……? アリアノット様……」


「あっ……大丈夫です、ピエタス様」


「こ、このところ、お、お疲れだと聞きました……! どうか無理は、なさらないで……!!」


 心配そうに眉根を寄せて私のことを案じてくれるピエタス様。

 彼は出会った時から現在に至るまで、常に私のことを心配してくれている気がする。


「……ありがとうございます、ピエタス様」


 気弱で、いつだって自信がないピエタス様。

 だけどずっと優しいこの人は、いつだって身分よりも私自身を見てくれていたのかもしれないってようやく気がついた。


 勿論、私が大国の皇女であることは大前提だけど!


「ごめんなさい、気遣わせてしまって……」


「い、いえ! ぼ、僕にできるのはこのくらいですから……」


 頬を赤らめて俯くピエタス様。以前に比べればずっと会話が続くようになったけれど、相変わらず彼は照れ屋で控え目な性格だ。

 好きな宗教画や絵を描く際にはとても真剣な表情になって、それがすごいギャップなんだけどね……!


「ア、アリアノット様は」


「え?」


「ぼ、僕にとって……聖堂の、光、みたいで」


「え?」


「せ、聖堂って、す、すごく音が響く造りになっているから、よ、夜になって灯りが一つもないと、お、音が、怖くて……」


 たしかに説法とかそういったものがよく聞こえるようにそういった造りになっているものが多いとは私も知っているけれど、急になんだろうか。

 私は小首を傾げる。


「ぼ、僕、家族とは、仲が悪いわけじゃないけど、よくもなくて……家にいたくない時、聖堂に行って、いました。でも、人がいるところは怖くて、隠れたことがあって……」


 その際、人の姿がなくなったのはいいがピエタスに気付かなかった聖堂の管理者が外出してしまったのだそうだ。

 当然ながら施錠されてしまったことによって日が暮れた聖堂ないは外部から差し込む月明かり程度しかなく、それも雲に隠されてしまえば真っ暗闇。


「ふ、普段は厳かで、僕らを救ってくれる場所が、と、とても怖いものみたいに思えて」


 それが、この現状に似ているとピエタス様は言った。


 知っている自宅とは違って救いになる、将来への道を示してくれた帝国。

 だけれどそこは安全だと思っていた聖堂と同じで、灯火があればそこが〝安心できる場所〟だと認識して頑張れるってことらしい。


 そして私がその灯火だと。


「……ぼ、僕はこ、こんなだから……頼りない、けど。アリアノット様を守れるように、知識に秀でることができたら、いいなって思ってます」


 にこっと無邪気な笑みを浮かべてそんなことを言われてしまった。

 う、ううん?

 サルトス様の言葉も結構恥ずかしいけど、ピエタス様のこれはこれでなんだか崇拝? みたいな?


(あれれ……あれえ!?)


 も、もしやこれは……兄様たちや周囲の人が彼らに『もっと言葉にして尽くせ!』とか言っちゃってるんだろうか!?


 私は「ありがとうございます」ってお礼を言いながら、口元がひくつくのを必死で押さえるのだった……。


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