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末っ子皇女は幸せな結婚がお望みです!  作者: 玉響なつめ
第十二章 花は一本、蜜蜂四匹
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幕間 末弟は末妹を案じて止まない

今回はカルカラ=ゼノン視点

 帝国内でカルカラ=ゼノンと言えば、おそらく皇室の兄妹の中では最も印象が薄いのではないだろうかと自分自身でもそう思う。

 そのくらい、俺は正直、パッとしない。


 別にそれはいいんだ。

 幸いというか、俺は末弟であることから特別な責任を負わされることもないし、なんだったらある程度の責任さえ果たせば好きな道に進んでいいし、それなりのポストも用意すると言われている。


 皇族として恥ずかしくない教養と武芸を身につけて騎士となり、いずれはそこそこの地位と爵位を得て皇帝となった兄の下で働く……そんな未来で俺は満足している。


 でも、問題は妹だ。


(……こいつ、自分が〝可愛い〟ってことがよくわかってないんだよなあ)


 俺たち兄弟は、末の妹が可愛くてたまらない。

 初めのうちは小さくてただ妹だから大事にしなきゃという気持ちだったけど、今では会話をして自分から可愛がっているつもりだ。


 賢くて、ちょっとませてて、責任感があって、俺たちの遠慮なんてぶっ飛ばして距離を詰めてくるくせにどこか自分に自信を持てない、それが俺の妹だ。


 本人は自分の見た目を地味だと思っているが、そんなわけはない。

 確かに茶色の髪とか濃すぎて黒に見えがちな目とかは色味だけで言えば地味だろうけど、顔立ちは整っているし楽しそうに笑ったりする姿はこう、目が離せないというか。


 淑女教育が始まってからはツンと取り澄ますことも覚えたけれど、俺たちを前にくるくる変わる表情や好奇心旺盛なところ、そうしたときに目を輝かせて動き回るその姿は何よりも可愛い。


(小動物というか、小鳥というか……声だって可愛いと思うし、きっともう少ししたら社交界でも目立つ存在になるだろうなあ)


 なんせ気難しい皇帝の妃たちにまで気に入られた末姫だ。


 ただ、本人の自覚がものすごく薄い事が問題なだけで。

 兄たちに大事にされているということは理解しているようだけれど、それがどれだけのものか世間知らずな妹は知らない。


 婚約者候補たちを前に、彼らのことを考えたりしているようだけど……妹がこの国にとどまれるようにと諸外国に出さない方向で、もしあの候補たちが気に入らないならまた別の人間をとまで父上も兄上たちも画策しているというのに。


 そして本人たちが気づいているかどうかはわからないけれど、候補たちが妹を見る目は……うん、まあ頑張れって感じだな。


「どうしたの? カルカラ」


「うん? ああ……なんでもないよ、母上」


「ふうん……」


 外の世界に興味を持たず、自分の世界に引きこもるうちの母親までもが妹のことを気にしている。

 言葉にはしないけれど、妹のことが侍女たちの口に上るたびに聞き耳を立てていることを俺は知っている。


(……本当にうちの妹は可愛いんだよなあ)


 町に下りたときも、同年代の少年たちが、少し上の子供たちがあの子のことを目で追っていた。

 そのくらい人を引きつけるものを持っているっていうのに。


 まあパル兄上が威嚇していたのは、ちょっと大人げないと思ったが……あれで妹に声をかけてくるやつがいたら確かに問題になっただろうから、それはそれでよかったのかな?

 いっそナンパでもなんでもいいからあの子に声をかける男の行列ができたら、あの子もあいつら(・・・・)も自覚してくれると思うんだけどな!


(はーあ、問題が起きる前にしっかりしろよ……ってどっちも子供だもんな)


 子供は子供なりに考えているし、行動している。

 それは自分がそうだったように。


 けど歯がゆくてしょうがない。


 ただまあ、俺も兄の一人として妹が可愛いから。

 ちょっとばかり簡単に妹をくれてやるには、癪に障るから。


「教えてやるのは、まだあとでいいか」


「カルカラ? どうしたの?」


「なんでもありませんよ、母上」


「ふうん」


 母上が少しだけ可笑しそうに笑ったのを俺は横目で見ながら、気付かないふりをするのだった。


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