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末っ子皇女は幸せな結婚がお望みです!  作者: 玉響なつめ
第十二章 花は一本、蜜蜂四匹
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「ふわあ」


 町はどこもかしこも、私にとって刺激的だった。

 王城内のどこまでも整然とした美しさとは違って、雑多で、人の多さでごみごみしているけれど……私はその喧噪が嫌いじゃない。

 ううん、むしろ好きだ。


 だって前世では休みの日と言えばウィンドウショッピングで町に繰り出していたわけだし!

 いや勿論参考書なんかも見なきゃいけなかったし、図書室通いがメインだったけどね!


 それでも、賑やかで幸せそうな人たちを見ていると『私もいつかはそんな幸せを手に入れるんだ』ってモチベーションアップに繋がったよね。

 今思えばよくもまあ私は腐らずに育ったと思うよ!


(……違うな、周りの人に助けられたからだ)


 友達にも恵まれたし、恩師や卒業後は周囲の大人たちが助けてくれたから。

 挫けそうになっても飛び出した先の未来を夢見させてもらえたから。


 苦しいこともたくさんあったし、上手くいかなくて悔しいことも数え切れないくらいあった。

 一人暮らしをした時には開放感と同時に孤独もあって、日々の生活でどうして自分だけって鬱々とした日もあったっけ。


(今となっては懐かしいって思うのも変な話だけど……)


 生き生きとした人々の姿は、私にあの頃の気持ちを思い出させてくれるような気がする。

 両手でそれぞれに掴んだ兄様の手を引っ張れば、二人が私のことを不思議そうに見ていた。


「兄様! いろいろ見たい!!」


「わかったわかった。ちょっと落ち着け」


「はは、兄さん(・・・)を慌てさせられるのはお前だけだよ、アリア(・・・)


 念には念を入れて、私たちはお互いの呼び方にも気をつけることにした。

 見た目はまあある程度ごまかしてはいるものの、じっくり見られたら知人にはバレるレベルだしね。

 そもそも私は服装と髪型を商家のお嬢さん風にしただけだし。


 パル兄様のことを私たちは『兄さん』と呼ぶこと。

 カルカラ兄様のことは『ゼノ』『ゼノ兄さん』。

 そして私は『アリア』だ。


 自分たちの名前をそのまま工夫しているだけだし、関係そのものはそのままなので間違えないしでいい感じだと思う!


「わあ……」


 町は活気に溢れているだけじゃない。

 石畳の町並みに、通る馬車に、見たことのない獣人族の姿や見たこともない品々、それらにわくわくしっぱなしだ!


 ただ、やはり子供は子供。

 体力のなさは否めない。


 はしゃぎすぎたせいで疲れた私を兄様たちは町の広場まで連れて行ってくれた。


「この辺りは広場になってていつも芸人が来るのさ。地方じゃ祭りの時期くらいにしか来ないが、皇都じゃあいつだって祭りみたいなもんだからな」


「運が良ければ才能を買ってくれる貴族の目に留まるかもしれないしね」


「そういうものなんだ……」


 広場では大道芸人のような人がジャグリングをしていたり、吟遊詩人が歌を披露していたりとやはり賑やかだ。

 それに合わせるように屋台も出ていて、あちこちからいい香りがする。


「飲み物と、それから何かつまめるモンでも買ってきてやる。アリアはゼノの手を離すんじゃないぞ」


「はあい」


「ありがとう、兄さん」


 ふうっと息をつく。はしゃぎすぎて恥ずかしい。

 だけど、楽しい。ここでは〝皇女様〟として淑女らしく、人の目を気にしなくていいから。


 デリアたちを前に気を張っているつもりはないけれど、やっぱり十歳になって婚約の話も出てくると……振る舞いには、気を遣うようになる。

 ある程度の行儀の悪さをデリアたちは許してくれるけど、それだって……平民の子たちとはかなり違うってことを、私は前世の記憶もあるからよく知っている。


(足を出したり、走ったり……それは許されないもんね。私は子供だけど、子供じゃないから)


 婚約者候補が現れる程度にはレディーとして扱われているのだから、それ相応の行動をしなくちゃと自分を戒める日々だ。

 だからだろうか? 酷く開放感を感じているのは。


「アリア、あっちを見てごらん」


「え?」


 ぼんやりとそんなことを考えている私に、カルカラ兄様が声をかける。

 指し示された方向を見ると、屋台に並んでいたパル兄様がちょうど買い物をしているところだ。


 屋台の主に何かを話す姿が見えて、何かこちらを指さしている。


「兄さん、俺たちに買うんだって説明して女の子が好きそうなのはどれか聞いてるんだよ。多分だけど」


「ああー」


 気配りのできるパル兄様らしい!

 思わず顔を見合わせて笑ってしまった。


「……あれ?」


 屋台の主のお子さんだろうか。

 私と同じくらいの年頃の男の子が、こちらを見ていた。


 思わずニコッと笑って手を振ってみたら、真っ赤な顔でそっぽを向かれてしまったではないか。


(わあ、可愛い)


「……うちの妹はもしかしなくても小悪魔なのかな」


 カルカラ兄様が呆れたように言ったけど、そんなことあるわけないじゃなーい!

 いや待てよ、今の私は美少女だったわ。


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