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末っ子皇女は幸せな結婚がお望みです!  作者: 玉響なつめ
第十二章 花は一本、蜜蜂四匹
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「怖い?」


 私の言葉を、パル兄様が受けて怪訝そうな顔をする。

 でもカルカラ兄様はうなずいてくれた。


 なんて言えば伝わるのか、そう思って動けなくなってしまった私の背をさするようにして、カルカラ兄様が微笑んでくれる。


「俺たちの妹は、とても繊細なんですよ。この子は……俺たちが大事に大事にしてきましたが、その分……俺たちしかいなかった」


「ああ?」


「兄様怖い!」


 恫喝するような低い声に思わず突っ込んでしまって、でもおかげで少しだけ息がしやすくなった。


「……兄様たちだけ(・・)なんて、さすがにそこまで拗らせてないよ」


 うん、兄様たちは悪くない。

 大事にされるってすごく嬉しいことだって私は知っている。

 

 そう……知っていることの方が問題なのだ。


(ただ純真にその家族の愛情を受け止めて喜ぶ十歳じゃなくて、私の前世がそれらの足を引っ張っている)


 その前世のおかげで兄様たちの複雑な関係とか、状況とかを思いやれたって部分は大きいけれども!

 でも実際問題、家族とか恋愛とか、とかく〝愛情〟ってものに対して私は拗らせているんだと自覚せざるを得なかった。


 両親から受けられなかった愛情と尊厳、押しつけられた家事。

 姉にだけ向かう愛情は、私が可愛くなかったからだろうかって何度思っただろう。

 でもその姉に対してもペットに対するものみたいな愛情だと知って、姉と私との間に立ちはだかる両親のことが憎く思ったこともあった。


 同時に、可愛がられてなんでも与えてもらえる、美人の姉が羨ましくて可哀想で、憎らしかった。


(……拗らせてるんだよなあ)


 私はあの頃の私と違う。


 前世の家族みたいに家族の中で格差なんてない。

 多少、妃さま方はあれこれあるみたいだけど、少なくとも私たち兄妹間にはない。


 父様は子供たちを平等に大切に思っていることはもうわかっているし、兄様たちも互いを尊重しているってことも事実だ。


(……私も、今世はこんだけ美少女なんだし)


 前世だって捨てたもんじゃないと思うけどね!?

 ただお小遣いとかなかったし姉のお下がりしかもらえなかったから身なりをきちんとできていたのかって言われたらちょっと首をかしげざるを得ないってだけの話!


(……お姉ちゃんの時は、羨ましくてたまらなかったけど)


 美貌の兄たちを持っていても、それを羨ましいとは思わない。

 つまるところ私は兄様たちが好きで、兄様たちに愛されて大事にされているってわかっているから満足しているんだと思う。


 でも、恋愛はどうだろう?

 私は家族に愛されたいと願って、その理想があった。

 それに近しいものが今手に入って、私は手の中に落ちてきた理想をとても大事に大事にしているつもりだ。


 兄様たちの婚約者たちに対して多少『兄様たちがとられた!』とかちょっぴり思っている部分はあってもそれで癇癪を起こす必要がないくらい大切にしてもらえているし、それを思えばこれから義姉になるであろう婚約者さんたちとは良い関係を築いて、将来は甥とか姪と遊びたいなって野望を抱いているわけで。


 そこで『じゃあ自分は?』となるのだ。


 ぶっちゃけ、恋愛はしてみたいし恋愛小説は大好物だったし、ゲームとかでもときめくことはあったよ。


 万人受けするゲーム、恋愛小説、それらはすごい才能を持つ美形で誰もが羨むような相手が自分を一途に愛してくれて、時には嫉妬までしてくれて……っていう王道が私は好きだった。


 現実にそんな相手いねーだろ! ってレベルのハイスペック男子に愛されるつかの間の夢を楽しんでいたって話だけど、まあ今世では急にそれが手に届くところにいるわけよ。

 勿論、私自身がハイスペックな立場にあるからなんだけど……。


(幸せな結婚がしたいって、思ってて……きっとそれは今のまま誰を選んでもそう(・・)なるだろうってわかってる)


 でも、だからこそ〝自分が選択する〟立場なんだっていうことが、とても怖いと思ったのだ。


「ヴィルジニア、焦って決めなくていいんだ。婚約者の選定に、期限は決められていなかったろう?」


「でも私はそうでも、彼らは……選ばれなかった人は、どうなるの……」


「皇女の相手に選ばれたって優秀ささえあれば、後からいくらでも手を挙げる連中はいる。今から選ばれない相手に対して申し訳なく思う必要はねえよ」


「でも……」


 仲良くなって、本当に恋愛関係になれたらいいと思った。

 しかしそれは婚約者って父様が一人だけ決めてくれるって思ってたからだ。


 私は、私の責任で、誰かを傷つけなくちゃいけないかもしれないのかと思ってしまったのだ。

 彼らが、婚約者候補の彼らが素敵で、優しくて、誠実であればあるほど私はそれを嬉しく思うのと同時に、申し訳なく思ってしまうのだ。


(……こんな風に悩む自分なんて、想像したこともなかった)


 私自身はもっと、自分が強い人間だと思っていたから。

 毒親の下にいても挫けず脱出した自分は、決して弱くなんかないって。

 未来をつかみ取るって躍起になっていたあの頃の私は、強いんだって思ってたけど。


(……違うのかもしれない)


 私はただ、虚栄を張って自分を守っていただけなのかもしれない。

 そう、思ってしまった。


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