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となりの世界の放浪者たち  作者: 空閑 睡人
第七章:炊金饌玉
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そこからは皆大忙しとなった。

この拠点には百五十人程の人が暮らしているという。その人々に料理を振る舞うには、持ってきている魔物の肉だけでは全く足りない。沙耶と圭吾は大急ぎで魔物を狩りに出掛けた。


千幸と勝成はそれを待つ間、座へと行って使えそうなものがないか物色しに行く。ここは元ホームセンター。調理器具や食器類は交換せずともいくらでもあったので問題ないが、肝心の食料は置いていない。


ウケから交換できる食料品は完成品である料理以外はあまり多くはないが、全くないというわけではない。

その筆頭が米だ。調理されていない食材の状態なら比較的食べられる味をしていることはわかっていた。それでも魔物から得たり、生えているものを採取したりしたものに比べると格段に味は落ちるのだが、贅沢は言っていられない。


調味料もそのひとつだ。塩ひとつとっても、ウケから交換したものより、旅の最中に海辺で海水から得た僅かばかりの塩のほうがよっぽど味がした。だがこれも手間暇をかけて用意している時間はない。


ルシファー曰く、魔物の肉とウケから交換した食材の味の違いは、魔素の有無ではないかとのことだった。どうやらウケから交換した食材には魔素が全く含まれていないらしい。かといって交換した食材に後から魔素を注入することは出来なかった。千幸は断腸の思いで、魔物から得ることの難しい食材や調味料を交換していった。  


この交換に際して、千幸は沙耶から大量の魔結晶を受け取っていた。茂は「出す」と申し出てくれていたのだが、これ以上は忍びないと沙耶が渡していたのだ。ルシファーがいるので多少の出費は賄える。


そうこうしている内に早速魔物が運び込まれてくる。

沙耶とルシファーが次から次へと運んでくる為、途中から圭吾も魔物を捌く側へと回った。見ればいつの間に交換していたのか、旅装とも街歩き用とも異なる服を着ていた。圭吾の好みからは珍しく飾り気のないシャツと細身のズボンで、どちらも殆ど黒色だ。その代わり腰にはたくさんの道具が入る鞄のようなベルトをしていた。解体作業用ということなのだろう。髪も高い位置で結んであって、随分と動きやすそうだ。その格好でせわしなく動き回っているようだった。


そして沙耶が何体目かの魔物を倒して、拠点へと運んでいる時だった。

近くの森林地帯から目ぼしい魔物を倒し、それを抱えて空から戻ろうとしていた沙耶の目に大きな影が飛び込んできた。


「な、あれ……!」


絶句する沙耶の前に現れたのは巨大なレントだった。見上げる程の大きさのレントが、拠点の外壁に向かっている。今まで何度も見てきた光景だ。


沙耶の鼓動が早打つ。震える手が無意識にルシファーの服を掴んでいた。それに気付いたルシファーが鼻を鳴らし、炎陣を描こうとぴくりと指が動いた。


その時、大きなものがぶつかったような衝撃音が響いたと思うと、レントがその巨躯を大きく揺らがせた。ぐらりと傾ぐが、すぐに体勢を立て直して腕のような太い枝を振り回して攻撃を始めた。だがレントがいくら枝を振り回そうとも音が止むことはない。


目を凝らして見てみると、レントの足元に恐竜のようなずんぐりとした生き物が見えた。するとその生き物が全身を使ってレントへとぶつかりにいく。レントが揺れて、木の葉が何枚もひらひらと舞い落ちる。そして続けて外壁の上からバスケットボール程の大きさの火の球がいくつもレントに向かって飛んでいった。その火球がぶつかる度に爆発するような音が響く。


拠点の契約者たちが戦っているのだ。レントへ向かう攻撃はどんどん多彩になっていく。それは即ち攻撃に加わっている人数が増えていることを示していた。攻撃はレントの足元から、外壁の上からと間断なく浴びせられる。

その波状攻撃に沙耶が圧倒されていると、落雷のような音と共に中央から横に折れるようにしてレントが倒れていった。そして動くことのなくなった大量の木材と化すと、さあっと光の粒子となって消えていった。


呆として成り行きを見ていた沙耶だったが、はっと思い出したようにルシファーの裾を引っ張っりその場へと向かわせる。直ぐに現場につくと、ルシファーは片手で掴んでいたワニのような魔物を雑に地面へ放り、もう片方の腕に座らせるように抱えていた沙耶を降ろした。


「おおー、ほんとに飛んでんな。あのにーちゃんマジで隷獣なんだな」

「ねえねえ、なんでオールなんか持ってるの?」

「片手でワニ持ってる! ゴリラだ!」


慌てて駆け寄った沙耶に対して、応戦していた人々の様子は随分と穏やかだ。その彼我の温度差に戸惑いながらも、沙耶は声を掛けた。


「あ、あの大丈夫でした? あのサイズと戦うだなんて……」


心配そうな沙耶とは対照的に、人々は何をそんなに心配しているのかわからないといった顔だ。


「まあな? いつものことさ」

「二日に一回くらい来るから、もう慣れっこだよ」


そう朗らかに語る彼らの表情に恐怖の色は見出だせない。愕然とする沙耶の肩をルシファーが叩いた。


「これがあるべき形じゃねえのか」


沙耶はすぐには答えられなかった。


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