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となりの世界の放浪者たち  作者: 空閑 睡人
第七章:炊金饌玉
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圭吾曰く、ここまで発展している拠点は初めて、とのことだった。


その拠点の面積自体は沙耶のいた大学よりは小さいのだろう。

だが、ホームセンターだったであろう建物周辺には既に真新しい小屋がいくつも建っていた。この拠点の人々は、唯物界から召喚された建物だけではなく、自分たちで新たに生活の場を造り出していたのだ。


拠点はホームセンターとその駐車場までが範囲内といったところのようだ。駐車場の外周をぐるりと二階建ての建物ほどの高さの石塀が囲んでいて、入り口は一箇所、しかも門の扉は厚くて重い鉄製だ。その代わり見張りはついていなかった。


そして郊外のホームセンター特有の、来場客の数とほぼ同数の車を停められる駐車場は建物の何倍も広い。幸いにも駐車場の地面はコンクリートで舗装されたままだったこともあり、そこを活用しようとなるのはごく自然な流れに思えた。


また、この拠点は駐車場ごと召喚に巻き込まれたようで、拠点の端には持ち主と次元ごと引き離された車がいくつか転がっていた。だが多くの車は意外にも人々の新しい生活の場のひとつとして活用されているようだった。駐車場に立ち並ぶ家々の敷地にはログハウスのような小さな小屋と車が置かれているものが多い。どうやら車は頑丈な物置であったり、小さな私室であったり、ベッドであったりとして活用されているようだ。


元々駐車場だった時の車の道路が、今も通路として区画整理されている。

その通路を歩く沙耶たちは拠点の人々から、かなり注目を集めていた。これほど発展している拠点だったとしても、むしろだからこそ新参者は目立った。

とはいえ、圭吾が連れるナズナや沙耶が抱えるユキに対してはそれほど警戒されることはなかった。他の拠点だと魔物の侵入かと疑われ、警戒されるのが常だったのだが、見れば拠点内の人々も自分たちの隷獣と思われる魔物を連れている者もいたため、ここでは物珍しいものでもなかったのかもしれない。


「拠点のリーダー的な人に一言挨拶とか出来ればって思ったんだけど、どこにいるんだろ」

「僕がそこらの人に聞いてこよっか? ほら、僕可愛いから男の人に聞けば大抵教えてくれるよ」

「やめてあげて! 第二の俺を出さないであげて!」


勝成が悲痛な声を上げた時、拠点の奥から一人の男性が歩いてきたのに気付き、沙耶たちは口をつぐんだ。拠点内ですれ違う殆どの人々と同様、その男性も幻視界の服を身に纏っていた。

佇まいを正した沙耶たちの様子に、男は小さく会釈をした。敵意がないと伝えたかったのだろう。


「どうも。珍しいですね、新しい人に会うなんて。お名前を教えていただいても?」


初老のように見えた男だったが、その物腰から中年くらいのように思い直された。薄くなってきている髪が外見をそう見させるのかもしれなかったが、覇気があまり感じられない口調や声音が外見の印象と少しずれていた。明らかにこちらの意匠をした服を着ているというのに、その地味な色味からはまるで作業着のような印象さえもあり、話しかけてきた男がこの拠点の頭とは到底思えなかった。

だが、周囲の反応はこの男がそうだと物語っていた。


ゆっくりと歩み寄りながら左から右へと視線を動かして沙耶たちを眺める男。年齢も性別も異なる沙耶たちは、通常なら繋がりすらなさそうに見える。この組み合わせが物珍しかったのかもしれない。


勝成がぐいっと前に進み出た。


「初めましてー! もちろん自己紹介はさせてもらいますけど、実は俺たちそこそこ遠いとこから旅してきててへとへとなんすよー。なんでちょっと泊まれる場所とかあればなーって」

「何より料理場だ」

「うお。ちーちゃん、ちょっと黙ってて」


間髪入れずに話に割り込んできた千幸に、勝成が手で抑える。男は千幸の言葉に首を傾げた。


「ふむ……。そうですね、流石に宿屋のようなものまでは造ってなかったですが……調理場も必要と?」

「あー、それはひとまず後で大丈夫なんで! とりあえず場所変えません?」


周囲からの視線が刺さっている。勝成は手を振って移動を促した。


「そうですね。話も長くなりそうだ。ではひとまずこちらへ」


そう言って男は先導するように踵を返して歩き出した。


男が向かったのはホームセンターの建物内だった。

個々人の住居やその他の関連施設のようなものは駐車場の敷地内に設けられているようだが、この拠点の統治運営を行っているのはやはり元から存在していた大きな建物であるここに集約されているのだろう。ホームセンターに入るまでの間に、男は自らを稲田(しげる)と名乗った。それに続いて沙耶たちも自己紹介をする。全員名乗る頃にはホームセンター内に到着していた。


ホームセンターの内部はかなり手を入れられていた。唯物界にあった頃にはおそらくだだっ広い空間に無数の棚や商品が一面に陳列されていたのであろうが、その棚や商品は見当たらず、その代わりに木材でできた壁でかなり区画整理されていて、いくつもの部屋が出来ていた。

茂曰く、ここには大まかに公共性の高い部屋が集まっているそうだ。その中にはウケの座も含まれていた。


沙耶たちはそのたくさんの部屋の中の一室に案内された。

部屋の中には大きな折り畳み机とそれを囲むようにいくつかのパイプ椅子が置かれていた。普段は話し合いを行う時などに使われる部屋だそうだが、こうして置かれている家具を見るとまるで唯物界に戻ってきたかのようだ。その部屋にあるのは殆どが唯物界のものだったのだ。


「ここには幸いにも家具や道具などには事欠かなかったですから」


そう言って茂は席を勧め、沙耶たちもそれに従った。パイプ椅子に腰掛けると、ギッと軋む音がした。茂は部屋の近くにいた年若い男に声を掛けて、全員分の飲み物を用意させた。飲み物はウケから交換したのだろうが、コップはプラスチックでできた使い捨てコップだった。これもホームセンターに置かれていた商品だったのだろう。


腰を落ち着けた所で、圭吾たちは改めて自分たちの事情を説明し始めた。


圭吾と沙耶は随分と遠くから旅をしてきていて、途中で千幸たちが加わったということ、その道中魔物を食べる方法を見つけ出し、その魔物を使った食事は料理として成立する味がするのだということも。その説明に際し、沙耶はこの世界のこと、隷獣契約のこと、魔素とは何かについても説明をした。


茂は初めて聞くことばかりで終始目を驚かせていたが、手元の手帳に要点を書き込み、冷静に話される事柄を受け止めていた。そして疑問に思ったことは論理的に質問も重ねていった。


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