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となりの世界の放浪者たち  作者: 空閑 睡人
第七章:炊金饌玉
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旅館の拠点を出てから一日目は、こうして魔物の素材化に四苦八苦して終わることになった。


そして結局この日以降も千幸と勝成は沙耶たちに同行することとなった。

彼らの主な目的は味のする、素材と化した魔物の肉体だ。隷獣がいなくても沙耶のように何とか魔物を素材化することは出来るのかもしれないが、隷獣がいない、つまり魔素を消費する感覚を得ない状態で、魔素の流れを掴むことは容易ではない。また隷獣がいない状態で旅が出来るほど、この世界は人間に優しくない。

隷獣を持たない千幸たちが沙耶たちに同行することは必然であった。


沙耶たちは魔物を得る練習を重ねながら旅を続けた。


沙耶は安定して魔素を操れるように、圭吾も沙耶に続いて魔物の肉体を残せるよう訓練を始めた。

圭吾は当初魔素の感覚を掴むのにかなり苦労していたようで、実感が得られるまでに二、三日を要することになった。だが感覚を掴んでからはあっという間だった。


ある日、沙耶の目の前で魔物を倒し、そしてあっさりと素材化させてしまったのだ。


「うん、出来た」

「うえええ! 何でもう完璧に出来るのー!」


沙耶の悲痛な叫びが響く。沙耶が魔物の素材化を安定して出来るようになるまで、ルシファーと離れていた期間も含めれば結構な日数がかかっている。だと言うのに圭吾はもう完全に要領を得ていたのだ。


圭吾はオールなど武器となるものを持っていなかったので、太い木の枝を削って先の尖った棒状にしたもので魔素を流し込んでいたが、所詮元はただの木の枝なので頑丈ではない。その為圭吾のやり方としてはアイリスでぎりぎりまで攻撃して、最後はアイリスの水球で捕らえ、そこを木の枝で刺して魔素を流し込むという方法なのだが、それが非常に安定していた。また何体か倒している最中に、肉体が消失し始める間際に魔素を流し込めば、とどめの攻撃が隷獣によるものでも肉体を残すことが出来ることがわかったのも大きかった。これにより格段に成功率が上がったのだ。


何より圭吾はアイリスで攻撃をして、その上で魔素を流し込んでも沙耶のように体調不良を伴う反動が来ることがなかった。それが更に沙耶へ衝撃を与えた。


「何でー! 私は何匹も倒すと気持ち悪くなるのに」

「あはは。まあまあ」


圭吾は苦笑いを浮かべて沙耶を宥めるしかなかった。


こうして二人が魔物の素材化に成功するようになると、流石に今いる人数では食材として持て余し始めていた。必要な部分は採取するが、食べきれない部分はルシファーの火で再度燃やす必要がある。その状況に心地の悪さを感じてもいたし、多種多様な食材が得られるようになったことで千幸たちに研究意欲が湧き出していたのだ。


「ちょっと大きめの拠点に行こう」


そう圭吾が言い出しても反対意見は出なかった。



次の拠点に向かうまでの道中は、これまでの沙耶と圭吾の二人旅だった時に比べて随分と賑やかなものになった。


千幸は魔物の食材研究に没頭し続けているが、意外にもこれに圭吾が加わった。身近で職人の見事な手捌きを目の当たりにしたことで刺激になったようだ。得意のフィールドワークで素材の調達や発見に熱を注いでいる。


千幸と同様魔物の食材に興味を惹かれてついてきた勝成はというと、隷獣との契約に心血を注いでいた。沙耶や圭吾が隷獣とともに戦うのを見て、改めて必要性を強く感じたようだ。

沙耶から隷属契約の方法を聞いてからは、隙を見つけては圭吾や沙耶に頼みこんで魔物との対峙に付き合わせていた。そうして渋々文句を言いながらもきちんと面倒を見る圭吾と、魔物に襲われてもぎりぎりまで手出しをしない沙耶とルシファーの協力により、勝成は無数の怪我を負いながら何とか隷獣契約に成功することが出来たのだった。


そして沙耶はといえば、周囲の景観を見て回ることに夢中になっていた。

今までの旅路ではそういった気分になれず、ただ通り過ぎる背景としか見ていなかったが、旅館の拠点を出てからは見る景色の全てが新鮮で魅力的に見えていた。食材研究用に新たな魔物を得る為と称して、ルシファーに抱えられてあちこちを飛び回っていた。千幸たちと歩くのは平坦な草原地帯が多いが、そうしてルシファーと共に飛んでいった先々では巨大な滝や奇形の大きな岩、天を貫く程の大木を見ることが出来た。唯物界とここは同じ地形とは聞いているが、その自然物は日本のものに限らず地球上のものとすら大きく様相を異にしていた。非現実的にさえ見えるその異様な光景を眺めることが沙耶の楽しみになっていたのだ。


そうして各々が各々の望むことを続けながら旅は続いた。

旅館の拠点を出てから順路としては海につながる湖沿いをぐるりと回り対岸へ、海岸を横目に歩いて数日。


とうとう五人と一匹はかなり大きな拠点に辿り着いた。


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