表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
となりの世界の放浪者たち  作者: 空閑 睡人
第六章:放浪
64/221

63

見れば小さな後ろ姿となった阿部たちが魔物と戦闘を開始しているのが見えた。森の手前の開けた場所で戦っているようだ。

もはや音すらよく聞こえない程に距離があるため全容はつかめないが、渥美は影、だろうか、地面から伸びる黒いいくつもの手を操って魔物の動きを止めているようだ。その渥美によって動きを止められた魔物を阿部の獅子のような俊敏な隷獣が倒していく。


確かにいい連携だ。そしてあの戦い方では機敏に動くことが出来ない晴美のイワでは相性が悪いというのも頷けた。今まで阿部たちに何と言われてそして戦力外通告されてきたのかが思い起こされる。

そしてその境遇に思い当たることもあった。それは目の前で話す徳田にではなく、彼女を突き放した二人の方に。


“他人を無理に関わらせるより自分だけでやっちゃったほうがいい、ってことだよね。……それは私にもわかる”


沙耶が想起したのは職場での、大学でのことだった。職場では教えている時間も手間もないからと、自分でやればいいと今泉や他の人に頼まれるがままに仕事を抱え込んでいた。大学でもルシファーの攻撃一発で倒したほうが安全で早いと思い、それを引き受けていた。


“……そしてどちらも上手くいかなかった”


今思えばそれらのやり方は、きっと何か間違っていたのだろう。もしかしたらそれは第三者の目線でならすぐに気付けたことだったのかもしれない。今沙耶が、徳田たちのこの状況に危うさを感じているのと同じように。


「私もどうにかして役に立ちたいとは思うんだけど、なかなかどうしていいか思いつかなくって。だから隷獣もいないでここまで旅してこられた人が補助番に入るって聞いて、お話を聞いてみたかったの」

「そういうことだったんですね」


沙耶は初めて晴美に会った時に言われた言葉を思い返していた。あの言葉はこういうことだったわけだ。


“だけどここまで旅してこられたのは私が何か凄いからってわけじゃない”


多少は自分で戦ってはいるが、そんなものは微々たるものだ。

ここまで来られたのはどう贔屓目に見ても圭吾の力が大きい。故に圭吾への負担は大きく、現にこうして負担のかかりすぎた圭吾は倒れてしまっている。


「私自身、何か特別なことはしていません。一緒に旅する友人に助けられてここまで来られたんです」


沙耶は告解するかのように吐露した。だが晴美が聞きたいのはそんなことではないということもわかっていた。


「……私にできたのは、今の私に出来る最低限のことをやったくらいです。ただ守られているよりは例えごく僅かな火の粉でも払えたほうが、少しは友人の負担が減るかと思って。隷獣が出せなくても弱い魔物くらいなら何とかこれで倒せます。でも所詮焼け石に水って感じです」


沙耶が持っていた鉄パイプを見せながら苦笑した。だが晴美は両手を握りしめて目を丸くさせていた。


「いやいや、凄いことじゃない! 生身でそんなものひとつで魔物と戦おうだなんて凄いことよ! 私なんてイワちゃんがいても魔物と戦うのは今でもとっても怖いもの。……そうよね、隷獣が出せない人でも戦えるんだもの。私だって何か出来ることはある、と思うのだけど……でも「それを一緒に考えて」なんて迷惑をかけている私が阿部君たちに言うなんて、ね」


晴美はそこで口を閉ざした。


“いや、それくらい言えばいいんじゃ――”


そう思った途端、その心の声が自分に跳ね返ってきて胸を突いた。その痛みが何なのか言葉に出来ないまま、それを徳田に説くのはどこか憚られた。


その時、沙耶は何らかの違和感を覚えた。悪寒のような悪いものではない。だが確かに先程までとは何か違っているような感覚。例えるなら知らない間に誰かが室内の暖房温度を一度上げていたかのような。

しかしそれに何ら確信も確証もない。嫌な気配、というものでもないならば、いたずらに晴美を煩わせることもないだろうと沙耶はひとまずその黙っていることにした。


その沈黙に耐えかねたのか、晴美が話しかけてきた。


「えっと、藤原ちゃんたちはここまで旅してきたのよね。どうしてって聞いてもいい? 旅するなんて大変でしょう、何かそうしなきゃいけなかった理由でもあるのかしらって」

「え、理由ですか……?」


晴美の言葉に沙耶は思わず口をつぐんだ。


大学での生活を思い出す。

花菜や英樹と一緒に狩りに出かけるのは楽しかった。全共委や大学の人たちに頼りにされていたのは誇らしかった。大学がどんどん良くなっていくのを見るのも嬉しかった。こんな世界でも居場所ができたと思っていたのだ。思い出すと胸が締め付けられる。きっとあの場所が気に入っていたのだろう。

しかし離れざるをえなくなってしまった。そのせいで圭吾にも迷惑をかけることになってしまった。今でもあの魔物が大学を襲撃してきた時を夢に見る。あの時倒れることなく戦えていれば、こんなことにはならずに済んだのではないだろうか。まだ自分はあそこにいられたのではないだろうか。

今さら考えたところでどうにもならないのはわかっているが、慙愧の念は絶えることなく己を苛む。


押し黙ってしまった沙耶を見て、聞いてはいけないことだったかと晴美もそれ以上追求することはなかった。そうして暫く二人は黙ったまま遠くで戦う阿部たちの姿を見ていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ