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翌日、沙耶を起こす者は誰もいなかったのだろう。沙耶が目を覚ましたのは日盛りの頃であった。
ルシファーはというと、いつまでたっても目覚めない沙耶を起こすことなく、見渡す限りの本の山から何冊か手に取って読んでいたようだ。
「ふあぁ。おはよ。ていうか意外。ルシファーって本なんて読むんだ。「読書なんてまだるっこしいことしてられるか」ってタイプかと思ったのに」
「なんだ、そのイメージは。やることもなかったしな、あれば読むのもやぶさかじゃない」
そう言ってルシファーは再び本に視線を落とした。結局ルシファーは、沙耶が昨晩食べ逃した分も補うように昼食にしては多い食事を終えるまで、食堂に本を持ち込んででも読み続けていた。
“意外な趣味、というか好きなことだな。まあ、私の寝過ぎも遅い食事も、本があるから文句も言わず待っててくれてるんだろうな”
結局ルシファーは学外に出る際も本を持っていった。魔物を倒し、沙耶が反動でへたばっている間のいい暇つぶしとなったようだ。
故に昨日から大きく変わった点でいえば、沙耶が暫く動けなくなることに対してルシファーが文句を言わなくなったことだが、変わったのはそこだけで、この日も沙耶は酷い不快感に何度も襲われることになったのだ。
そして最後は昨日と全く同様に、夕食も食べずに教授室で気絶するように眠りにつくのであった。
この繰り返しが数日にわたって続いた。途中、活也からショッピングセンターの人たちへ手紙を預かり、それを届けに飛ぶことがあった。手紙はこちらが立てている計画の内容、大まかに言えばショッピングセンターの面々に大学へ移動してもらい、そこで隷属契約の促進を図ること、そしてその是非を尋ねるものだった。
ショッピングセンターでは新たに一人隷属契約を結べた者が出ていたが、三人追加で避難してきた人が増えており、隷属契約の問題は喫緊の問題であった。
そのため昼過ぎに沙耶たちによって届けられた手紙を受け取ると、その日の夕方には計画を全面的に支持するという結論が出た。手紙にしたためられた計画は当初沙耶が活也たちと話し合った時よりもより綿密に、細かなとこまで配慮がされていたこともあったのだろうが、彼らが答えを出すのにそう時間はかからなかった。
返事を携えその日中に大学に戻ったが、計画の実行までさらにあと数日要するようでその間も沙耶は毎日魔物を倒すため、襲い来る反動と戦い続けていた。
計画の実行日の頃には、ルシファーが読み終わった本で山ができていた。
だが、苦心の甲斐あってか五発程度は問題なく炎を出せるようになっていた。それでもそこに至るまでの間にとうとう沙耶は何度か嘔吐してしまっていた。
だがもうその頃にはルシファーに対して見栄を張る気も失せていたので、最後のほうはルシファーの目を憚ることなく、むしろ背中をさすってもらってすらいた。意外にもルシファーも沙耶のそんな姿を見て揶揄することもなく、炎を出せる回数が増えると素直に労いの言葉をかけてくれていたのだった。
そして計画の実行日を迎える。




