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となりの世界の放浪者たち  作者: 空閑 睡人
第三章:大学
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波々注いであったコップの水が空になって暫く経った頃、沙耶の知っている限りの情報を活也たちに伝え終わった。突飛なことや衝撃的なことがたくさんあったのだろう、二人は沙耶の話を聞き終わると黙りこくってしまった。

そして二人同時に動き出した。活也が大きく息をつき、優は椅子の背にもたれかかって頭をかいた。


「やっぱ帰り方はわかんねえか」

「ああ。だがそれは検討がついてただろう。それより君たちが来てくれたのは何よりの僥倖だったわけだ。これは俺たちがどんなに話し合ってもわからないことだった。本当に感謝する」


活也が改めて沙耶たちに礼をした。沙耶は慌てて手を振る。


「ああ、そうだ。君たちのほうから聞きたいことはあるか? いや、これだけのことを知っているんだ、今さら俺たちでわかることなどありはしないかもしれないが」

「いえいえ、そんな! でしたらあの、ひとついいですか?」

「もちろんいいとも! 何だろうか」


活也が笑顔で手を叩いた。沙耶はおずおずとずっと気になっていることを尋ねた。


「ここでは半数の人が隷属契約できていると聞きました。それはたまたまそういう人が集まったからなんでしょうか。それとももしかして契約方法をご存知だったり……」


沙耶が不安そうに尋ねると、活也と優が顔を見合わせた。


「そんなことでいいのか?」

「つーか、え、そこまで知ってて何で逆に知らねえんだ?」

「え、ってことはご存知なんですか!?」


まさかの返答に沙耶の声が明るくなった。これがわかればショッピングセンターの問題を解決できるかもしれない。


「危機だ」

「え?」


活也の簡潔な答えに沙耶が思わず聞き返す。


「命の危機が隷属契約のトリガーのようなんだ。俺も優も学外に出て、初めて魔物に遭遇して襲われた時に俺たちの隷獣が現れた。他にも隷獣を持っている者たちにどんなタイミングで初めて隷獣が出てきたのか聞いたところ、皆一様に魔物に襲われたり瓦礫の下敷きになりかけたりした時など、命の危険が迫った時に出てきたと答えた。また、まだ隷獣を持っていなかった有志の者で実験してみたところ、確かに魔物に襲われかけたタイミングで隷属契約が発動したんだ。だから俺たちは希望者には隷属契約を結ぶ手伝いをしている。もちろん危ない目に遭うわけだから戦うことが出来る契約者が、万が一に備えて複数名護衛につくんだがな」

「なるほど……」


感嘆の声を漏らす沙耶。言われてみれば沙耶も電車から崖下に落ちかけて「もう死ぬ」と思った時にルシファーが現れた。そういえば藤田も魔物に襲われそうになった時に隷獣が現れて事なきを得たと言っていた気がする。

ショッピングセンターでは危ない目に遭った人が少なかったのだろう。おそらくここでも、ただ危険な目に遭った人はそれほどいなかったのかもしれないが、隷属契約の契機となることを率先してやっているからこその、この実装率の高さなのだろう。

これを伝えればショッピングセンターの人たちももっと隷属契約を結べるようになるかもしれない。


「君の話だとショッピングセンターにいる人たちは殆どが契約できていないんだったな」

「はい。なので少ない契約者たちで残りの人たちの食料等を支えているため、もう限界がいつきてもおかしくない状況だと思うんです」

「ふむ……」


沈痛な表情の沙耶を見て、活也が口元に手を当てて何かを考え込み始めた。それを見ていた優がぎょっとしたように活也の肩を掴んだ。


「あ、おい、まさかお前……!」

「ああ、彼らをここに受け入れよう」

「だあっ! やっぱり言いやがった!」


活也がそう言うと、優が呆れ返ったように大きく溜め息をついた。


「わかってんのか、隷属契約を結べたとして戦闘に不向きな隷獣が出てくることもある。その上そもそもそんな危ない目になんか遭いたくねえと隷属契約に挑戦すらしない奴だって少なからずいる。そういう奴らを食わせるために俺たち戦闘クラスの負担が増えるんだぞ」


声を荒らげる優に、活也は目を閉じたまま返す。


「ああ、お前たちにはいつも苦労をかけてすまないと思っている。こんな偉そうなことを言って俺も戦闘はできないわけだしな」

「お前は……いいんだよ。委員で俺らの取りまとめとか他にも戦闘以外の仕事やってんじゃねえか」

「なら迎えようとしている三十人だって同じじゃないのか」


優がぐっと押し黙った。


「希望者には隷属契約の手伝いを、そこから新たな戦闘クラスになれる者がいればいいし、なれないなら戦闘以外の仕事を頼めばいい。人数が増えればそれだけやれることも増える。例え戦えなくとも人力で貢献すればいい。現に戦闘クラス以外のクラスもあるわけで、そして戦闘クラスの戦闘以外の補助をしているのは全共委のメンバーですらない人たちだ。優だって世話になっているだろ」

「いや、そうだけどよ……。つっても不確定要素が増えるのは単純に考えてリスクだろ」


頭をかく優。沙耶は二人の会話にずっと口を挟めずにいた。

どちらの言い分も正しいのだろう。沙耶が隷属契約のやり方をショッピングセンターの人たちに伝えて、そこはそこでやっていけばいいのかもしれない。だが活也の言う通りこれは危険を伴う挑戦だ。ならば少しでもノウハウのある人と場所で行うのが一番危険を抑えられるとも思える。それにはやはりショッピングセンターの人たちがこちらに移動してくるほうが現実的だ。

それにあの陰鬱な空気の場所よりここのほうが、よほど風通しがいいような気がする。


「ああもう、わあったよ! お前は言い出したら聞かねえからな」

「ああ! いつもすまないな、優。……さてさっそくだが、この移動計画に関して話を詰めていこう。藤原さんもいいかな」

「はい!」


そうして三人はショッピングセンターに滞在している者約三十名の移動計画を始めた。最初はこの三人で、時にはルシファーからも沙耶が無理矢理意見を出させて、計画の大筋を決めた。実際の行動人員や日時、その他細々した点は流石に三人だけでは決めきれず、また、全共委全体の協力が不可欠なことから以後は活也と優が委員会に戻って話をすることになった。

大筋の中で、ひとまず実行されるまであと数日は必要だということは決まったので、沙耶はそれまで大学に滞在することとなった。

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