表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
となりの世界の放浪者たち  作者: 空閑 睡人
第十七章:孤塔の楽園
200/220

199

「実はあれにはからくりがあるんすよ。ほら、俺たちの拠点って魔物から守る壁とかないじゃないっすか。んー、まあそのせいで今回こんなことになっちまったんすけど……ああ、じゃなくて! だから拠点に魔物が近付く前に索敵出来るのが必須で、その為にはやっぱり空飛ぶ隷獣が必要だったんす。建物の最上階も結構高いんで割と遠くまで見晴らせるんすけど、やっぱ自由に飛び回れるほうが格段にやれること増えるっすからね。でも翼のある隷獣とか空を走れる、えっと蹴空種って言うんでしたっけ? その隷獣持ちは全然いないんすよね。そうなると人手がどうしても足らなくって、ウケから交換出来るってなってからも個人じゃあんな沢山の魔結晶を用意出来ないじゃないすか。そこで俺が声を掛けて皆で魔結晶を出し合って、そんであの隷属契約の指輪を交換したんす!」


意気揚々と語る翔に、沙耶は「うんうん」と頷いていたが、ルシファーが呆れたように言葉を挟んだ。


「それはもう聞いたぞ」

「うっ……、ど、導入っすよ、導入!」


翔は言葉を詰まらせてどもるが、直ぐに立て直した。


「で、集めた魔結晶……っつっても半分は俺が出してるんでまずは俺が指輪を交換して主になって、そんでいっちばん最初、契約を結ぶ前にその翼竜と「俺だけじゃなくてこの拠点皆で大事にするから皆に力を貸してほしい」って頼んだんすよ」


自信満々に胸を張ってどん、と叩く翔。沙耶はこそこそとルシファーの下へと近寄ると、耳元に手を当てた。


「要はお願いしただけ……ってこと? そんなんでいいの?」

「……言語を話せなくても言葉が通じないわけじゃない。言葉での交渉自体は可能だ。それに隷獣となる奴らの基本的な目的は主となる人間から魔素を得ることだ。今回のケースの場合、契約して間もなくだから特定の主を持つという認識も薄く、翼竜側も納得がしやすかったんだろ。……多分な」


ルシファーの回答はどこか歯切れが悪い。ルシファーも確証があるわけではないのだろう。確か以前に隷属契約については専門外だった、というようなことを言っていた気もする。

沙耶も「まあ、そんなものなのか」と、なあなあのまま納得することにした。


「へいへい、何を二人で内緒話してるんすか。いいっすか、ここからがこの話のミソなんす! 翼竜は皆で使うって運用には納得してくれたんすけど、問題はその実用っす。ルシファーにあんだけ大技を何度もぶっ放されてもピンピンして動き回っている沙耶ちゃんにはわかんないかもしんないっすけど」

「いや、痛いほどわかるよ」


渋面を浮かべる沙耶に、ルシファーがくくっと喉を鳴らす。そんな二人にしかわからないやり取りに翔は首を傾げたが、気を取り直したように話を続けた。


「えっと、そんで隷獣に空を飛ばさせるのって、ただ隷獣を地面の上に出し続けるよりも余っ程魔素の消費が激しいんすよ。だから指輪の使いまわしで翼竜の主になれてもその翼竜を使いこなせるだけの魔素を自前で用意が出来ないって奴も多くて……。そこで俺が考えついた裏技が「前払い」っす!」

「……前払い?」


得意げに指を立てる翔に、沙耶が首を傾げる。その反応に気を良くしたように、翔が立てた指を左右に振った。


「指輪を他の奴に貸し出す前に、ここで一番魔素量が多いこの俺が予め指輪に魔素を沢山込めておくんすよ。で、自分の魔素だけでは足りない奴が主の時に、翼竜にその溜めてあった俺の魔素を使ってもらって契約の行使を継続してもらうって寸法っす!」

「おお……確かに前払いだ」


感嘆の声を漏らす沙耶。


翔のその行為は、一つの可能性を示唆していた。

つまり魔素の前払いが可能、ということならば、例えば平時の何でもない時に魔素を予め沢山渡しておいて、激しい戦闘があったときにそこから使ってもらうようなことが出来れば、魔素切れを起こす可能性が減るのではないか。

魔素切れはこのいつ魔物が襲ってくるかわからないこの世界において命取りになりかねない。それが防げるならこれはかなり有益な情報になるはずだ。


「そんなことも可能なんだね、ルシファー」


沙耶が期待を込めて振り返ると、ルシファーが肩を竦めた。


「やれるにはやれる……が、非効率だ。ぶっちゃけ魔素の無駄遣いだな」


それを聞いた翔が頭を抱えて倒れ込んだ。


「やあっぱりそうなんすねー! あれ結構疲れるんすよ! なのにいっぱい魔素を突っ込んでも実質使えるのはその半分くらいの感覚で。だからあんまやりたくない、ってのが本音だったんすよ。とはいえやっと見つけた裏技で、何とかこの運用にこぎつけて今はもうそれで回し続けてるんでしゃーないんすけど」

「魔素は体外に出た瞬間から霧散し始める。そして余分な魔素を保存しておく、というような性能もこの指輪にはない。魔素を溜めることが出来る鉱石ってのもあるにはあるが、それはこの指輪には使われていないようだからな」


ルシファーが自分の指に嵌った指輪を見せた。それは偽物の指輪だとわかってはいるが、沙耶たちのしている本物の隷属契約の指輪のことを指しているのはわかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ