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となりの世界の放浪者たち  作者: 空閑 睡人
第十四章:生まれ変わった古都
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答えが出せぬまま暫く飛び続けていると、ぼんやりとした色でしかなかった拠点が、その輪郭を現し始めた。少しずつはっきりと見え始めると、更にその拠点の異様さが目立つようになってきた。


この拠点はやはりかなり広大なものだった。一都市とまではいかないだろうが、町村程の大きさはあるように見える。東西にも広いのだがそれよりも圧倒的に南北に長い。

そして驚くべきは、これ程広大な面積を有していながらも、その外周が全て城壁の如き厚く、高い壁で囲われていることだ。


確かにホームセンターの拠点でも、拠点周りは外壁で囲われていたが、その造りからして大きく異なっている。ホームセンターの拠点での外壁は、主だった目的を拠点と外界とを隔てる境界としての意味合いが強かった。あの壁は弱い魔物ならば侵入は防げたろうが、強い魔物や巨大な魔物相手では微かな障害にしかならないだろう。

しかしこの拠点の壁は、それよりも遥かに高く厚く、頑丈そうな造りになっていた。それは明らかに外部からの侵入を防ぐことを目的に作られているのがひと目でわかった。


そしてそのような壁が更に拠点内にもう二つも聳えている。一番目の壁を、拠点全体を囲う壁とすると、その壁の内側でこの拠点を南北に二つに分けるようにして北側の区画を二番目の壁が囲み、そして二番目の壁の内側、最北端、最奥と言ってもいいだろう場所に鎮座する大きな建物を三番目の壁が囲む。つまりこの拠点は合計で三重の城壁で囲われていることになる。

果たしてこれだけのものを備えるのにどれ程の魔結晶が必要だったのか最早想像もつかないが、更に驚異的なのはその囲われた広大な城壁内には、所狭しと数多くの建物が整然と立ち並んでいることだ。


拠点は南北を貫くように一本の太い道が伸びており、その左右に碁盤の目のように区画分けがされ、その区画内に規則正しく建物が並んでいる。一番目の壁の内側の区画には、全く同じ造りの小さな平屋のような四角い家々が並び、二番目の壁の内側の区画には家らしき建物よりも一回りか二回り程大きな二階建て程の大きさの建物が、これもまた何十棟も並んでいる。そして最奥には、四階建てはありそうな程巨大な建物が三番目の壁に守られている。


“あ、これ平城京だ”


沙耶は唐突に歴史の教科書に載っていた、とある絵を思い出していた。南北に伸びる朱雀大路、碁盤目状の街、そして一番奥に聳える平城宮。ここはおそらく唯物界の平城京跡地にあった公園ごと飛ばされてきたものを拠点として活用しているのだ。


そうとわかると、城壁に備わる強固で無骨な門の後ろに、隠されるようにして控える、復元された平城京当時の門も見えた。確か朱雀門というのではなかっただろうか。太古の都に約千三百年の時を経て、新たに人の営みが築かれているのかと思うとロマンのような感動を覚えた。

だが平城京が作られた当時の栄華を思わせるような華やかさを、何故だかこの拠点からは感じ取ることは出来なかった。

それは要塞めいた城壁のせいであろうか。


沙耶がそうして拠点の威光に圧倒されていると、下から人の声がした。ユキから身を乗り出して見てみると、巨大な鷲のような魔物がこちらに近付いてきていた。突然現れた大きな生き物に亜沙子が悲鳴を上げる。

その時鷲の背中の上で何かが動いたのに沙耶が気付いた。


「あ……あれ、人だ。亜沙子ちゃん、大丈夫だよ! あれ、魔物じゃなくて隷獣だ」


沙耶がそう声を掛けると、漸く亜沙子の悲鳴が止まった。それでもその顔は恐怖に引き攣っている。

すると軽快な笑い声と共に、鷲の魔物が沙耶の目線の高さまで上がってきた。やはりこの魔物は誰かの隷獣だ。人が乗っている。


「すまん、すまんなあ。まさかそんなにびっくりさせちまうとは思わなくてよ。安心してくれ、俺ぁ、ここのしがない門番だ」


ひょいと顔を出して、その男は人好きのする声で話しかけてきた。


前髪を含めて後ろに撫でつけたような髪型で、四十代程の年齢に見えるが、その声や表情からは老いどころか若者のような活力を感じる。着ている服もおそらくウケから交換したのだろう、唯物界の日本ではまず普段着として見かけることなどないアラビアン衣装を身に纏っている。それも実際のアラビア諸国で着られているような伝統的な白く長いシャツのような服ではなく、所謂アラビアンナイトのような創作物で見かけるような服だ。金刺繍のされた派手な服に羽織り、肩にも腰にも細長い刺繍入りの布を巻いて、金の装飾品をじゃらじゃらと着けている。コスプレのような衣装だが、妙に彼と似合っていて、どことなく小粋だ。そういえば天照によるファッションショーの際にアラビアンナイトのような踊り子風の衣装を着させられたが、男性用としてもウケへ供給されたのかもしれない。どことなく着た衣装と似た意匠を感じる。

だとすると彼はウケへの供給後すぐに交換したということになる。驚くべき感度の高さだ。とはいえ、この真冬の只中で着るには随分と薄着に見えるが、当の本人からは寒そうな素振りは一切見られない。


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