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となりの世界の放浪者たち  作者: 空閑 睡人
第十四章:生まれ変わった古都
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「え、えっと、この子は君の隷獣なんだよね。隷獣は主を傷つけられないっていう契約があるから、君たちを空の上で振り落としたり危害を加えたりするようなことなんてしないよ。ああ、それと、空飛ぶのが怖いってことだけど……いや、確かに言われてみれば最初は怖いって感じる人もそりゃいるよな……。ううんと、でも拠点を探すのに私も空を飛んでいこうと思っていたんだけど、でもそうか、怖いんだもんな。となると他にどうやって……」


亜沙子に訴えかけるように話し始めていた沙耶だったが、その言葉は次第に自問自答のようになっていき、終いには腕を組んで独り言と化していた。

その様子を見ていたルシファーは呆れ果てたように、傍観を決め込んだようだ。ルシファーからすれば空を飛ぶという行為は地上を歩く行為と何ら変わらず、それに恐怖を抱く間隔が全く理解できないのだ。それに恐怖を抱く亜沙子も、それを何とか説得して飛ばそうとしている沙耶も、ルシファーには奇異にしか映らないのだろう。


優香は戸惑い、沙耶と亜沙子とを交互に見遣っている。

亜沙子は自分の発言が沙耶を困らせ、ルシファーを不機嫌にさせているのだと気付くと、おろおろと視線を彷徨わせた。沙耶を困らせる、それはつまり現状唯一頼れる人間に置いて行かれてしまう危険を孕んでいるのだと、亜沙子はその考えを未だ捨てきれないでいた。


「あ、あのっ! お姉さんが、大丈夫って言うなら……信じます! だから……っ」


意を決したように口を開いた亜沙子の言葉は途中で詰まってしまった。顔は不安に強張っている。


亜沙子のその言葉が本心から発せられたものではないことくらいは、沙耶にもわかる。

だが、今はその言葉に乗るしかない。


「よ、よし。じゃあ、なら早速行こう! 安心して、何かあっても必ず直ぐに助けるからね」


亜沙子は悲壮な表情で頷いた。優香は少し申し訳無さそうな顔をしつつも、その目は喜色を隠しきれていない。大好きなティアラに乗って空を飛ぶのがどうしても楽しみなのだろう。


せっかくやる気になってくれたのだから今のうちに立たねば。


沙耶はすぐさま出立の準備を始めた。とはいっても敢えて準備することなど殆ど無い。荷物を再度取り纏め、ユキとティアラを呼び出し、騎乗するだけだ。


しかし、今まで飛んだところを見たことのないティアラにいきなり乗って空を飛ぶ、というのも確かに心配ではある。


沙耶は亜沙子に、ティアラに空を駆ける指示を出すよう頼んだ。亜沙子は小さく頷くと、ティアラに「空を走って」とだけ言葉少なく伝えた。ティアラは頷くように頭を下げると、二、三度その場で地面を蹴り、地面を駆け出した。すると間もなくティアラの足が地面を離れ、大地を駆けるようにして空へと昇っていった。

やはりティアラは蹴空種なのだ。


広い空の中、白いたてがみをたなびかせ、風を受ける度にその肢体が光を反射して輝く。その光景はまるで一枚の絵画のようだ。

優香は大興奮して歓声を上げ、流石の亜沙子もその美しい光景に感じ入るものがあったようだ。その時ばかりは、ずっと曇っていた顔が僅かに上向いた気がした。


実証実験が済んだら後は本番だ。


沙耶はまず亜沙子をティアラに乗せた。ティアラは唯物界の馬と同じ程の大きさで、背の位置は亜沙子の目線よりも高いが、亜沙子が乗ろうとするとティアラは何も言わずともしゃがみ込んでくれた。やはりティアラは亜沙子の隷獣なのだ。続けて亜沙子の前に優香も乗せる。怯えてなかなか座れなかった亜沙子と違い、優香はぴょんと飛び跳ねるようにしてあっという間に乗ってしまった。もうここまでくると喜色満面にわくわくとしていることを表情に出して憚らない。

沙耶としてもそちらのほうが助かるので「楽しみだね」などと言って少しでも二人の気分を盛り上げようとした。


そして次は沙耶がユキに乗る番なのだが、ここで問題が生じた。

ルシファーだ。


「ルウ、わかってるだろうけど、飛んでるとこを彼女たちには見せられないんだから、ルウもユキに乗ってもらうからね」

「あ? 今更だろ。俺が飛んでたところはもう見られてるじゃねえか」

「わ、わかんないじゃん! それにこのまま飛んでるとこを見せなければ、「見間違いだったかな」とか思ってくれるかもしれないし! それに今から人のたくさんいる拠点に向かうんだから結局この後絶対に人には見られることになる。元々拠点が見えたら地上に降りて歩いて向かおうとは考えてたんだから……とりあえず今はユキに乗るの!」


声を潜ませながらきっぱりと言い切ると、沙耶はルシファーの背をぐいぐいと押してユキのもとへと向かわせる。

あからさまに渋面を浮かべるルシファーだが、それはユキも同じだった。どこかルシファーに対抗心を抱いている節のあるユキはそんな勝負相手を背に乗せるのが嫌なのだろう。尾を垂れ、不服そうな表情を露わにしている。


「もう、頼むよ、二人とも!」


沙耶が声を張り上げた。


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