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となりの世界の放浪者たち  作者: 空閑 睡人
第二章:被災者たち
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15

そこからは英樹が淡々とルシファーに質問を続けていった。

「なぜ自分たちが召喚されたのか」「隷獣とは何か」「何をすればいいのか」とひとつひとつの質問を簡潔に尋ねていく。その問いにルシファーは、時に全く聞き慣れない用語で返したり、言葉足らずな回答をしたりしていくが、英樹はそれらの答えのわからない点を端的に問い返して疑問点を順に潰していき、理解できるように回答を導いていく。そのような問答が暫く続いた。


「……俺が今思いつくことは以上です。ありがとうございました」

「ふん、やっとか。おい沙耶。この俺がここまで辛抱強く付き合ってやったんだ。金輪際こんなことはやんねえからな」

「お、おう。私も彼が聞いてくれた以上のことは、とりあえず出ないわ」


ルシファーは途中から沙耶の顔から手を離していたが、黙ったまま聞いていた沙耶が大きく頷いた。ルシファーと英樹の会話中、口を挟める状態にはなっていたが、沙耶が入り込む余地などなかった。本当に英樹だけで、沙耶には思いつかないことまで聞いていったのだ。


「あの、最後にここにいる皆で、認識の共有と確認をしたいです。いいでしょうか」


沙耶と藤田が大きく頷く。英樹はほっとしたように表情を緩めると理路整然と話し始めた。


「まずこの世界について。俺たちが元々いた時空を唯物界、今俺たちがいるこちら側の時空を幻視界と呼んでいるそうです。そして幻視界にはさらに三つの世界が存在し、それぞれ天界、地界、魔界と呼ばれています。今僕たちがいるのは地界にあたります。この地界と唯物界では大まかな大地の形は同じらしいため、このショッピングセンターは唯物界の日本と同じ位置に存在していると考えても良さそうです」


沙耶が小さく首を傾げて唸った。


「一つの時空に三つの世界か……。うーん、元の世界で言う外国、という感じではなく、仮にあるとして天国や地獄みたいな感じなのかな」


英樹はその問いには曖昧に返事をしただけで話を続けた。英樹にもそこまで言い切る自信はなかったのだろう。


「えっと、それでこれら三つの世界は簡単には行き来できないそうですが、行けないというわけではないようです。ただ幻視界と唯物界、この次元間の移動に関してはルシファーさんでも方法がわからないとのことでした」


花菜の方から鼻をすする音が聞こえた。英樹はそれに気付いたが、振り切るように続けた。


「俺たちはどうやらこの幻視界にある地界に何者かによって召喚され、ここにいるようです。それが誰によるものかはルシファーさんもご存知ないとのことでした。でもここまで大規模な召喚となるとかなり高位の者たちの仕業ではないかとのことです。ちなみにこの高位の者たちというのは天界または魔界に存在する、人間ではない種族のことを指します。そもそもこの幻視界には僕たちが来るまで人間は存在しなかったそうですから」

「なんというか……元の世界では、悪い言い方ですが、人間は数多く跋扈していたというのにここでは圧倒的な少数派になるんですね」


嘆息するように呟く藤田に、英樹は小さく頷いた。


「そして俺たちがこの幻視界に召喚された理由ですが、この魔結晶を集めさせるためであると予想されます」


英樹が握っていた手を開き、魔結晶を見せた。これは沙耶が持っていたものだったが、説明のためにも英樹に譲っていた。


「この魔結晶は魔素と呼ばれる特殊な物質……というかエネルギーでできています。幻視界では主に魔素と地素と呼ばれるものが万物を形成しているそうです。元の世界だと原子みたいなことなんだと思います。で、元々天界や魔界にいた種族の方たちは魔素だけで生命が形成されているため、この魔素が生命線になるのですが、魔素は魔結晶からしか得られず、また魔結晶は魔物からしか採れないそうです。従来はこの魔物から魔結晶を集める作業を天界の者、天族の方たちで行っていたそうですが、それが滞るようになったため俺たち人間を召喚し、代行させるのが目的ではないかと思われるそうです」

「なんかこの辺り、ルシファーぼんやりだよね」

「俺は、んなことに興味なかったからな。だいたいしか知らねえよ」


鼻息を鳴らし、ふんぞり返るルシファー。魔素は生命線だというのに、それに深刻な影響をもたらす事態にすら無頓着なのはただの怠惰ではないだろうか。そう思った沙耶だったが、面倒事になりそうだったので言葉を呑んだ。


「人間がわざわざ召喚された理由としては、人間だけが体内で魔素を生み出すことができることだと思われます。魔素の生成に関しては俺自身あまり実感がありませんが、ルシファーさん曰くそうらしいです。ただ人間自体は非力ですから、魔界に生息している理性ある魔物を隷獣として人間と契約させる。これが隷属契約。三浦さんのテディや、藤田さんの疾風、そして藤原さんのルシファーさんが隷獣で、人間がその主となります。契約内容としては大きく三つ。隷獣は主を害せない。主の指示に従う。隷獣の活動及びその報酬は主から供給される魔素である、という点です」


沙耶は初めてルシファーと話したときを思い出していた。ルシファーに殴られそうになったあの時、ルシファーに電撃のような衝撃が走って彼自身が傷ついた。なるほど確かに主に危害は加えられないようになっているようだ。

だが。


「ルシファー、三分の一適用されてないよ」

「何を言う。ばっちり三分の三適用されてるだろうが」


悪びれる風もなく言い切るルシファー。全て適用されるならば今こんな必死になって何もかもを聞き出そうとなどしていないだろう。沙耶が辟易したように英樹に先を促した。英樹も頷く。


「隷獣は、普段は契約による特殊な異空間にいますが、主からの呼びかけによりこの地界に呼び出されます。ですが主からの魔素の供給が止まると戦うどころかこの地界に存在を保つことすらできなくなるそうです。疲れると隷獣が出せなくなると三浦さんたちは話していましたが、こういうことだったんですね。そして隷属契約はこの召喚時におそらく全員がいつの間にか身につけていた指輪に、契約式が埋め込まれているようです」


英樹が左手の甲を三人に向けた。その人差し指に他の三人と同じ、小さな石の嵌った指輪があった。


「たぶんな。そんな気配がするってだけだ。俺だってこの契約式について詳しく知らねえし、噂で聞いた程度だったからな」

「なんで知らないことをそんな胸張って言えるのさ……」


溜め息をついて肩を落とす沙耶。


英樹はそっと自分の指輪を撫でた。ここには隷獣と契約を結べている三人と同じ式が埋め込まれている。ならば自分にもその機会はやってくるはずだ。忌々しく思えていた指輪が今は綺麗に見えた。


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