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となりの世界の放浪者たち  作者: 空閑 睡人
第十三章:斯くして舞台の幕が上がる
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力なく肩を落とす竜巳だったが、暫く項垂れると、勢いよく顔を上げた。


「わかった! 交換する、どんなのだろうと交換してやる! だがな、交換をするためにわざわざある程度発展している拠点を探し出して交換しに行くよりも……天照殿! 貴殿の眷属であるウケが出来ることは貴殿自身で出来るのだろう! なら貴殿から交換すればいいのではないか!?」


一息にそう言い切ると、竜巳は天照へと挑戦的な目を向けた。


“交換……してやる?”

“座を探しに行くのが面倒なだけじゃん”


物言いたげな沙耶と圭吾の刺さるような視線をちくちくと背後に感じながらも、竜巳は胸を張り、天照から目を逸らさずに立ち塞がる。

天照は無言でじっと見つめ返すも、竜巳も怯むことなく受け止める。


先に折れたのは天照であった。


「はあー……。まあ、お主らがいなくなった後の諸々の雑事を任せるためにいずれ呼び出そうとは思っていたが。……よいな、儂は荷選びには付き合おうとれん。ウケをここに呼ぶで、後はそれで対応せよ」

「よっ! 流石、天照大御神!」

「戯け! 調子に乗るな馬鹿者」


したりと笑う竜巳の頭を天照が思い切り叩きつける。その光景を沙耶と圭吾が一歩引いた所で遠巻きに見ていた。


「え……神と名乗る人相手にあの態度って。何なの、無敵なの」

「うーん、僕もそう思うけど、その台詞沙耶ちゃんも言われてたからね。君たちどっちもいい面の皮してると思うよ」

「……え、私も……?」


そうして天ノ間にウケが出現することとなった。


驚くべきことに、この出現したウケは喋り、動くことができた。天照曰く、こちらが本来のウケの姿であり、座にいるのはこの本来のウケの能力の一部だという。その為、座にいるウケたちは決まりきった言葉しか返せず、実体を持たないのだそうだ。

とはいえ本体のウケもお喋り上手というわけではないらしい。決まりきった言葉以外も返すが、言葉数はかなり少ない。これが彼女の個性なのかもしれない。


それでも今までロボットのように定型文しか返ってこなかったウケから、辛うじてでも会話が出来るというのにはしゃいで暫くの間、竜巳や沙耶たちに話しかけられ続けることになった。だからだろうか、出現したばかりのころは感情の一切が感じられなかったウケも次第に少しずつ感情の片鱗が現れ始めるようになっていた。

とはいえそれは主に、あまりにもしつこく話しかけられることに対する辟易のようなものだったのだが。


しかし、このウケの出現により旅の準備は大きく進むこととなった。

公平性を保つためにこのウケから交換できる物品の種類は、この地界に存在している座の発展具合を超えない程度になっているらしいが、それでも竜巳の目的である空を飛べる隷獣の指輪は交換することが出来た。


交換したのは小さな翼竜のような隷獣だ。小さいとはいっても人一人なら十分乗る事が出来る。とはいえ身体は細く、爪や牙も小さい。竜というより翼の生えた蜥蜴のような見た目だ。この見た目にやはり竜巳は難色を示したが、贅沢はいっていられない。それにこんなものでも、この翼竜はウケが交換できる隷獣の中で唯一飛べる隷獣であり、そして交換には大量の魔結晶が必要だったのだ。

それはこの天ノ間滞在中に「暇だから」と、魔物を大量に倒していたはずの竜巳ですら、少し足りず追加で魔結晶を稼ぎに行かないといけない程であった。それを見た圭吾は、いつか自分も交換しようと思っていたのだろう、あまりの高額さに「外車か!」と憤慨する程であった。


またウケの出現は竜巳が隷獣を交換出来たということだけでなく、この旅に必要なその他の物資も天ノ間にいながら交換することが出来るようになったのが大きい。

今回は何とも曖昧な目的地の旅だ。それに加えて、現在天ノ間の外は冬真っ只中。その上、地界の気候が唯物界の日本と同じかどうかもわからない。備えるべきものは多く、交換する物資も膨大だ。それを何処かの拠点とこことを往復して用意しなければならなかったのならばと常に時間がかかっただろう。

ウケがここにいてくれるのならばその時間も不要で、交換出来る一覧から選ぶ物資を検討することも出来る。



その支度の最中のことだった。


部屋で机に向かい、何をウケから交換しようか考えている沙耶のところにルシファーが現れた。丁度いいと言わんばかりにルシファーにも意見を出させ、候補を挙げては紙に書いていく沙耶。

うんうんと唸るような声で悩む沙耶をじっと見ていたルシファーだったが、「おい」と声を掛けた。


「うん?」

「お前、何か当たり前のように試練とやらに参加することになっているが、そもそも言い出したのはあの男であってお前じゃない。本当に行く気か」

「んん?」


ルシファーの問い掛けに思わず面食らう沙耶。


だが言われてみればルシファーの言う通りである。竜巳に流されるままに今に至るが、まさかこれほど長くここに滞在するとは思ってもみなかった。当初は得体のしれない場所を一緒に確認して終わりだと、その程度のつもりだったのだ。


だが実際にはそこで異空間に引き込まれ、この世界の化身と出会い、ユキが転変し、ただの時間稼ぎのつもりが、結局離別の挨拶をしたばかりだった圭吾を巻き込みファッションショーのようなものをする羽目にまでなった。

思えば数奇な出来事ばかりだが、それに加えて更にこれからより長い時間、多くの労力をかけてこの島の端にまで行こうとしている。


竜巳は本気でこの世界に関する情報を知ろうとしている。新たな情報を持つ者を探してわざわざ四国からあの拠点にまでやって来たほどだ。


だが果たして沙耶はそうだろうか。


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