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となりの世界の放浪者たち  作者: 空閑 睡人
第十二章:伏竜の庭
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己をじっと見つめる沙耶の視線を、続きを促しているのだと勘違いしたルシファーが言葉を繋げる。


「沙耶、以前魔素を得たと知って「私も魔法が使えるようになったのか」と聞いてきたことがあっただろ」

「うっ……もう忘れて」

「俺は「使えるわけない」と言ったが、それはここに由来する。身体の造りが人間と俺たちとでは違う、というか具体的には人体構造に魔結晶が含まれるかどうかが違うってことだ。人間は魔素を生み出せても、それを事象に変換する為の魔導式を刻む魔結晶がない。故に俺たちのように魔素を現象に変換出来ない」


ルシファーがそう言って自分の胸をとんとんと叩いた。

確かにそれならば、人間が魔素を生み出せても隷獣たちのように特別なことが出来ないのも納得である。

だがふと気付いたように沙耶がルシファーに目を向けた。


「あれ……でもさっきルシファー、魔結晶にこう指で何か絵を描くみたいにやってたけど、それならどうやってその体内の魔結晶には刻むの? ま、まさか身体からこう、抜き出して……?」


怖気だったような目をする沙耶。ルシファーが沙耶の額を弾いた。


「んなわけあるか。魔導式ってのは、具体的な事象を細部に至るまで頭の中で思い描けるようになることで「成る」。そして魔導式は成った時点で己の魔結晶に勝手に刻まれる。例えば指示なんぞしなくても脳が自動で記憶をインプットするみたいにな。だから、んなグロテスクなことしなくても問題ねえんだよ」

「な、なるほどー」


胸を撫で下ろす沙耶。


「で、これを体内の外、つまりそこらの魔結晶にわざわざ自力で魔導式を刻み込んだものを刻式という」

「おお、やっと目的の話題に戻ったな」


竜巳が笑った。ふん、と鼻を鳴らしてルシファーが続ける。


「ただこれは俺たちが常日頃魔素を望む形に発現させるのとはわけが違う。魔導式は事象をイメージすることで自然と体内の魔結晶に刻まれるが、刻式は体外の魔結晶に式として自ら刻み込まないといけない」

「あー……自分で自分の腕を動かすってのは特に難しいこと考えなくても出来るけど、それを全てプログラミングで動くロボットとかにさせようと思うと、いっぱい計算したり式を考えたりしなきゃいけなくて難しい、みたいなことかな」

「そういうことだ。だから刻式には制限も多い。魔結晶一つに一つの式しか刻めなかったり、発現させたい事象をイメージだけでなく再現性のある式として組み直さないといけなかったりとかだな。故に式への深い造詣やそれを考え出すセンスも必要だし、それに魔導式を刻むという行為自体も、ある程度の魔素の扱いを得ていないと出来ない」


ようやく当初の議題であった刻式についての説明に辿り着いた。

だが聞けば聞く程、これはそれに至る道筋から聞いておかねば理解出来ない内容であった。確かにこれを既知の者が全て説明するのは骨だっただろう。


しかしルシファーが面倒がらずにこれらを説明しきれたことに、沙耶はいたく感動した。


「うん、何となくわかった。凄い凄い、ルシファーだってちゃんと説明出来るじゃない」

「こら、撫でんな。わかったから」


はしゃぐ沙耶とルシファーを横目に、竜巳は投げ渡された魔結晶をじっと見つめる。ぱっと見ただけではよくある、ただの魔結晶の一つにしか見えない。


「仕組みも意図も概ね理解した」


そう独りごちるように呟くも、脳裏では別の考えが駆け巡っていた。


”それよりもこの刻式というのは、ともすれば可能性の塊ではないのか。魔結晶一つにつき一つの現象という制限付きだが、その発現させる現象自体はかなり自由度が高いように思える。拠点によってはウケたちから様々な機能を持った設備なども交換出来るようだったが、それはこれを組み込むことでその機能を可能たらしめていたのではないか。刻式とやらに必要なのは魔結晶とそれに刻む魔導式、そして発動させる為の魔素といったところか。だがそれだけで出来ることが大幅に増える……!”


大きな閃きを得かけていた竜巳からミカエルが魔結晶をひょいと取り上げた。そしてそのままぐっと力を入れ始めた。

ミカエルの剛力を知っている竜巳がぎょっと慌ててそれを制止する。


「お、おい、壊すなよ!」

「……光らない。おい、これ壊れてるんじゃ……あ」

「あーっ!」


竜巳の絶叫に、沙耶とルシファーが振り返った。


二人が見たのは必死に虚空へ手を伸ばす竜巳と、ミカエルの手から無情にもさらさらと霧散していく魔結晶だったものだった。


「そりゃ壊れてるだろ。今、お前がぶっ壊したからな」


ルシファーがミカエルを指差す。ミカエルは掴みかかる竜巳を無視して表情を変えずに首を振った。


「いいや、私が握り潰す前から壊れていた。魔素を流し込んでも光らなかったぞ」

「そりゃてめぇの魔素の扱いが雑だからだ。流し込む量は多すぎても光らんと言っただろうが。お前もこいつらと一緒に特訓したらどうだ。つーか壊したんならそっちでどうにかしろよ。俺はもう作んねぇからな」

「うおおーそんなこと言うな! 見ろこいつを! 繊細さの欠片もない! これに同じ物が作れるわけないだろ」


竜巳の悲鳴が響き渡る。


こうして沙耶たちの魔素を扱う訓練が始まった。

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