表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

蚊に、血を吸われれば

作者: 厳島宗太郎

蚊に吸われた血の前の人の記憶にコネクト出来る女

   「蚊に血を吸われれば」

         山中千


 プーン、とモスキートーンを空気中に散乱させて、一匹の蚊が大東時亜希の二の腕に止まった。

 亜希は気付いていたが、殺さず、血液を献上した。

 マックシェイクを啜る私みたいだ、と亜希は思った。


 亜希は、その蚊の前に吸われたであろう人の記憶に繋がることができる。


 マッチング成功。

 前は、伊達真人の血を吸っていた。

 真人は、27歳のサラリーマンだ。

 記憶の中で、恋人のサラと揉めている。面白そうだわ、と亜希は思った。


「ご飯を食べたら、皿下げてっていったよね?」

サラは、堪忍袋の緒が切れたといった模様。雲行きは、かなり怪しい。

「分かったよ、やればいいんだろ?やれば」

真人の言い方は、まるでサラに非があるといった印象。

「なにその言い方、この際だから言うけど……真人ってご飯作っても美味しいもありがとうも言わないよね?ご飯も残すし」

 真人は核心をつかれ、憤怒した。なんてダサい男、亜希は思った。

「その分、俺が多めに家賃払ってるだろ?そのくらい普通じゃね?」

短い言葉で、最低な言葉を発した。

「はあ?私はあなたの母親じゃないのよ。今のあんたに魅力を感じないわ。出てく。じゃあね。」

「……ちょ、待てよ」


 その時だった。サラの携帯電話が振動した。

 修羅場に、修復のチャンスが与えられる、と思っていたのだが……

「凪くうん、ほんとコイツ最低。え、今から?行けるけど……。え!行く行く。凪くんち始めてだ!ありがとう。凪くんは優しいね」

 サラは、目に涙を浮かべている。

 どれだけ真人がサラを苦しめたのがわかる。


 凪は真人の同僚で、今や自社のエースだ。

 また格の違いを見せつけられた。

 真人は、いてもたってもいられなくなった。この女、この女を渡すわけには行かない、と。


 キッチンへ行って、包丁を手に取り

「さようなら」

と囁くサラの綺麗な後ろ姿を刺した。

 ぐ、グホォ、という生々しい声をあげ、サラは床に寝た。

 血で玄関は、赤い朱に染まっていた……。

 死んだサラの血の気の引いた青い唇に接吻した。

「サラは、俺のものだ!」

と激しく叫んだ。


 記憶が、巻き戻る。

 真人の幼少期だ。


 校庭で、ドッチボールに入れてもらえないようす。

「僕も入れて」

と必死で声を出すが、皆黙りを決め込んでいる。

 幼少児にしては、残忍な虐め方だ。

 悪口を言われるということは、存在を否定されているものの、存在を認めているということ。

 無視は、存在すら認めてもらえない……。


「ただいま」

 散乱した玄関のアパート201号室に、泥だらけでボロボロの小さな靴を真人は脱ぎ捨てる。

 リビングに入ると、母親が喘いでいた。

「あん、あぁん、あはぁ、あん、あん、あぁ❤」

「おい、ガキが帰ってきたぞ」

「ちょっと、今日は帰って来たら駄目っていったよね?龍コイツ引っ張り出して!」

「たく、いい所だったのに」

 男はボクサーパンツを履いて、真人に近付いていった。

 怖い、と真人と亜希は思った。

 筋肉は隆々としており、スキンヘッド、身長はゆうに2倍以上はある。

 ドガっ、頭を一発殴られた。

 耳を掴まれ

「邪魔すんな、小僧」

と言われ、家から追い出された。

 僕の家なのに……。


 もう一度、校庭に行って、無視された。

 無視は、痛くないので、ましかも。そう真人は思った。


 気絶している亜希の足元に、もう一匹の蚊が血を吸おうとしている……。

読書がこういう感覚だと思います

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ