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イチオシ短編

毎日がエイプリルフールの人間が散歩をしただけの日記

作者: 七宝

 前提として、この日私は全裸で過ごしているということを頭に入れておいていただきたい。


 ポケットからキャッシュカードを取り出し、44万円を引き出す。札束を尻に挟んだら準備完了、これからは趣味の時間だ。


 私の趣味は散歩だ。小説を書くことも趣味ではあるが、散歩をしている時間の方が多い。小説については自分で言うのもなんだが、わりとたくさん物語を作ってきたと思う。1つの作品を長く続けるということはあまりしなかったけど、いろんな内容を考えてきた。


 そんな頑張った小説より時間をあてているのが散歩だ。またまた自分で言うべきことではないが、正直私は散歩を極めている。全国のプロサンパー(プロ散歩師)よ、今日だけは許してくれまいか。エイプリルフールなんだし。


 そもそも散歩をする理由だが、散歩にはメリットもあればもちろんデメリットもある。それを総合して見た結果、皆散歩という趣味を始めるかどうかを決めたと思う。少なくとも私はそうだった。


 散歩は気分転換になるし、適度な運動は健康にとても良いのだ。また、知らない道を通れば新しい発見が出来る。面白いものも見つけられるかもしれない。ワクワクしないか。


 いろんな人と出会えるというのもまたメリットだろう。「可愛いワンちゃんですね〜」「可愛い赤ちゃんですね〜」そんな言葉から人との交流は始まる。


 さて、良いことばかり言っていてもなんだし、デメリットも述べていこうと思う。これを言ったら元も子もないのだが、まず「疲れる!」というものがある。散歩なんだから当然だろう! を通り越してポカーンとしているあなたの顔が目に浮かぶが、説明させてほしい。


 私は散歩を娯楽として見ている。娯楽と言えばゲーム、テレビ、スポーツ、など色んなものがあるだろう。この中でもゲームやテレビはそんなに疲れるものではない。ヨガや逆立ちをしながらテレビを見たら当然疲れるが、普通に見ている分には基本的に疲れないのだ。


 そこが他の娯楽との差だ。人によっては散歩よりゲームやテレビの方が6000倍楽しいということもあるだろう。6000倍楽しいゲームやテレビが疲れないのに、6000分の1の身分でしかない散歩ごときが我が身体を疲労させるなど、無礼の極み! 腹を切れい! 腹を! と思うことだろう。


 そんな中で私は疲れずに散歩する(すべ)を身につけた。そう、散歩を極めるということは、デメリットを取り除くことでもあるのだ。私は度重(たびかさ)なる訓練により、尻での移動を可能にした。


 それでは結局尻が疲れるだろう、って? そんなものオート設定にしておけば問題ない。充電さえしておけば疲れることはないだろう。


 まだまだデメリットはある。先程、知らない道には発見があると述べたが、同時に迷子になるリスクが付きまとう。特に私は方向音痴で知らない道が好きだから、リスクが2倍と言ってもいいだろう。


 しかし私は散歩を極めし者。そこの対策もしっかりしている。私が何のために冒頭でATMに寄ったのか、それは道しるべを作るためだろう!


 尻に挟んだ440枚の1000円札を一定間隔で落としていくことで、迷子になる心配がなくなるのだ。ただ、帰り道は同じ道を通らなければならず、冒険家としては少々複雑な気持ちである。


 また、傘を持たずに散歩に出た場合、急な雨に降られることがある。だからといって常に傘を持ち歩くのも邪魔だなぁ、と思うだろう。心配ご無用だ。天候を支配すれば良いのだ。私が散歩している間は常に曇りにしておけばよい。


 散歩をしていると思わぬ事故にあったり、転んで怪我をすることがある。こればっかりはどうしようもないので甘んじて受け入れて欲しい。人の死とは突然訪れるのだから。


 デメリットのほうが多くなってきてしまったが、数は問題ではない。散歩好きの私はメリットの方に1億ポイント入れているので、デメリットと合わせるとメリット12万に落ち着くのだ。


 またまたデメリットといこう。夏は暑く、冬は寒い。当たり前のことだが、実際散歩をしてみると分かる。35℃なんて人間が活動できる温度ではないのだ。雪の降る冬もそうだ。氷点下なんて全裸で歩けるわけがないだろう。


 だがこれも心配ご無用。先程のように天候を操ればいいのだ。なにも難しいことではない。山と海を持ってきて、適当に調整して雲を作れば幾分か暑さは減るだろう。冬だって太陽を少しこっちに寄せれば解決だ。


 さてさてここからが本題だ。これは日記なのだから、実際に散歩をしなければ嘘になってしまう。まあエイプリルフールだからいいのだが。お金もおろしたことだし、散歩に行くよ。


 尻で移動するとバカだと思われるので、普通に歩いて散歩をする。しばらく歩いていると、公園でおばあさんを連れた犬を見つけた。犬もおばあさんも特に可愛くなかったので声をかけることはしなかった。だって、「可愛いですね〜」以外に話しかける方法ってこの世にないでしょ?


 駅前まで来たところで少し休憩だ。自然を見ながらそのへんの犬のフンに腰を下ろすというのもまた平和で良いものだ。このまま2時間くらい座っていよう。


 2時間が経ったので私はまた歩きだした。尻から落ちる1000円札に茶色い物体が付着しているが、これは私のではなく犬のフンだ。絶対に誤解しないでいただきたい。


 駅前に、杖をついて歩いている若い女性を見つけた。私と同じく20代くらいに見える。過去に大きな怪我でもあったのだろうか、若いのに大変だなぁ、と思いながら私は杖を奪い全力疾走した。


「待てコラァ!」


 女性はチーターに変身し追いかけてくる。おいおい、そんなのずるいだろ! 仕方がないので私はお尻移動モードに変形し、時速600kmで自宅まで走った。


 外は危険だからテレビでも見るか。散歩のほうが600076倍面白いけど。


『緊急速報です。伊勢神宮内にある駅の前からアイツの家にかけて、うんちのついた1000円札が一定間隔で落ちているもようです。また、それを道しるべにしてチーターが走っています。緊急速報でした』


 へぇー、世の中いろんなことがあるんだなぁ。まさに、事実は小説よりも奇なり、だね。よし、小説でも書こうかな。そうだ、このニュースの内容を小説にしよう!

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