第4話 レルムの騎士
「我が名はサムソン!!レルムの大公、ヨエルの騎士!
「リーシアとやら!一手御相手致そうぞ」
と、いきなり大音声が戦場に轟く。と、レルム兵士がざざっと下がり、視界が開ける。
カン!カン!とそれまで響いていた打ち合いの音も止み、いっときの静けさが戦場を支配した。
兵士たちの人垣を割って現れたのは、一騎の騎士。月毛の巨大な馬にまたがり、兜と鎧が陽光を跳ね返し、リーシアを見下ろしている。
カッカッと駒を進めて来、槍の届かない距離で止まる。
ランスを供周りに預けてから、下馬する。
シャラララ・・・と、鞘走りの音をさせながら、分厚いソードを抜き放つ。
リーシアも改めて盾を構え、槍をしっかりと握る。
流石にソードでは、リーシアの槍よりも間合いが遠い。このソードでリーシアの攻撃を捌くのはむずかしかろう。
午後の風が吹きすぎた。
と、ソードがいきなり上から叩きつけられてくる。そこの刃、鍔、拳に合わせて槍を突き入れて、軌道をそらし、かわす。
ソードが地面をえぐり、小石を撥ねた。騎士の兜からのぞく目が驚愕に見開かれる。その一瞬の隙をついてさらに槍を胸板めがけて突き込む!
重い手応えが返ってくるけれど、刃は通っていない。押された勢いで騎士は後ずさるけど、それだけ。
追撃を許すほどの隙は見せてはくれない。
槍を構え直す。
「やるね」
「貴公もな」と、騎士さんも返す。
じり、と前足を進めると、わずかに左に回り込み、突きこめる隙を消してしまう。
手練れだ。
では今度はこちらから、と、下げた穂先を跳ね上げる崩跳槍を狙うと、素早く盾でいなしてみせる。それだけではなく素早く剣を突き入れてきて、二撃目を許さないところがさすがだ。
突きは盾でいなすだけでなく、捋を使って引き込み、崩してみる。が、これにもこらえてみせる。
化勁なんて知らないだろうに恐ろしい。近づいたところを肩で打撃を加える。
これは流石にたたらを踏んで退がるけれども、倒されたりはしない。強い。
「ほほう。やるなリーシアとやら」
「あなたもやりますね、サムソンとやら」
と、騎士が左右に目配りをした。が、リーシアはこういう誘いで隙は見せない。
「ふむ」と、騎士が頷く。
そして、剣を持つ右腕をさっと掲げて、何やら雄叫びをあげ、そしてまた構え直した。
「何を・・」
と、問う間に騎士が仕掛けてくる。上、左、返す刃で右から、引いてからの突き。それを槍と盾でいなす。あの重そうなソードをまるで蒲の穂を振るかのように振り回す。これは生半可な膂力ではない。
かろうじて防ぎ切れるといった力、速さ、場所の攻めが数合続く。
ソードの重さが響く。
凌ぎ切って、飛び退った騎士が間合いを取って構える。
と、傍の愛馬にさっとまたがり、くるりと馬首をめぐらしかけ出した。
これには流石にリーシアも虚をつかれる。軽く駆けただけの馬といえど、流石に徒歩では追いつけない。では他の歩兵は、と、周囲を見れば、すでに大半は撤収の途についていて、その姿は遠い。
やられた。
とはいえ、さすがにへたり込んでいるカルルを見れば、助かったという気持ちは払拭できない。
「騎士リーシア!!いずれまた会おう!!」と、遠くからよく通る声が届いた。




