第2話 開戦
3日ほどはそのままレルムの監視がリーシアたちの任務となった。レルムは相変わらず山間を縫うように白い旗をなびかせる。
レルムの全貌が、あと1両日ほどで到達できる距離になる頃におおよそ判明した。旗を押し立てる騎士を中心に5名から10名ほどの徒士が随行していて、それで1個の部隊を構成している。旗は徒士の構える槍に結ばれ、おそらくその徒士が一番の従士なんだろう。一つの隊に限って言えばリチャード様の部隊より小規模だ。
隊列は言ってはなんだがあまり整っていなくて、どうしてもリーシアの目から見てリチャード様の部隊から見劣りする。これは自分の出身組織をひいき目に見ているせいだろうか。そうは思いたく無いけれど。
もちろん、お城への報告は少し驚異を高めに見積もってしている。あんまり侮った報告をして、対策が不十分になったりしたら、対価はリーシア自身の命ということになりかねない。
きらり、きらりと日の光を跳ね返すレルム騎士の兜が眩しい。午前中はこちらが太陽を背にしているので、レルムが攻め込んでくるとしたら夜だろうか。
既に在郷の猟師や木こりに話を聞いて、進軍路は特定している。大軍を用いた包囲戦はない。6騎50人ほどが全軍だ。李書文の知識では小競り合いでしかないけれど、総数100名にもなる衝突となると、未経験のリーシアには大軍だ。最悪を想定していた数百人からすると拍子抜けしかねないけれど。
距離的に見える場所に、野営をする敵軍を見るのもあまり気持ちいいものではない。なんとなれば、夜討ちでも仕掛けたかったけれど、そういう奇襲はギュンター公から厳禁されていた。
そう、まだまだこの世界は「戦争に名誉」を持って行っていた古い時代なんだ。
せっかく引っ越したのに、ろくに寝床で眠れていないのは豪腹だけど、まあ、仕方のないところ。こんなの早く終わってしまえという気持ちと、戦で手柄を立てて出世したいっていう気持ちがないまぜになっている。
それにしても、こんな戦争で何が変わるのかはちょっとわからない。どう考えてもあの軍隊でウェスタヤルトは落ちないし、少しばかり荒らして得られるものが少なすぎる気がしてならない。それともウェスタヤルトでもレルムのように遠征したりするんだろうか。
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翌日、ついにレルムが勢揃いして前進してきた。昼前に矢がギリギリ届かないところに整列し、なんだか大声を張り上げ始める。
言葉がわからないので正直「なんだこりゃ」だけど、伝令兵のヤクルに言わせればあれはレルム語の悪口なんだそうだ。あれで出ていかなければ腰抜けで、出ていくことで戦闘になる。
いや、なんとものんびりした戦争ではある。
「ねえ、ねえ。やっちゃっていい?」っていうのは師匠。
いやいや、確かに矢の届かないところから思い切りののしるのはまあ、なんというか、幼稚極まりない。気持ちはわからんでもない。
とは言え、こんな状態でギュンター公に無断で開戦するわけにもいかない。
と言っている間にもう一人の伝令兵、クレメントさんが戻ってきた。
「伝令!」
「ご苦労様です」
「公の命令をお伝えします。
「このままレルムの跳梁を許すのは耐え難し。速やかにレルムを駆逐せよ。なお逃走した場合においては追撃不要。
「とのことです」
「承知しました。それでは一戦交えさせていただきます」
「では・・・」というのはやっぱり師匠。
この数であの部隊を駆逐してしまったら一体どんなことに・・・。




