第9話 沈墜勁
父さまに祭への出場をしたいとつたえたあとは、鍛錬にこれまでよりも身が入るようになった。注意しなくてはいけないのは、金剛八式にしても、八極小架にしても、常に相手を想定しておこなうこと。套路のための套路になってはいけない。実のところがこれがやっぱりむずかしい。
もちろん動作が正確でなくてはいけないが、そこに囚われ過ぎて、実戦を想定できなくなっては意味がない。どちらも基礎鍛錬ではあるが、実戦に使えないということもない。
とは言え、それでもまだ、相対練習や、大八極を始めるのは早い。お祭りにでるのは自分の今を知るのにちょうどいいけれど、それが目的になっては本末転倒だとおもう。
自分はまだまだだから。
しばらくして、お祭りの準備に呼ばれた。
父さまについてきてもらって、はじめて村の広場にきた。
祭りではないので、それほどでもないけど少し人がいる。それもずいぶんでっかいおじさんばっかり。流石にちょっとこわい。神槍李の記憶は「この程度はなんでもない」と主張するけど、やっぱりこわい。自分はこんな人たちと戦うのか。
人だかりの真ん中にジョールグおじさんをみつけた。
父さまとリーシアをみつけて「おー!きたなー」って手をふってきた。
「おー」と、父さまが手をあげて返事する。
近づくと、どのおじさんもにこやかなんだけど、やっぱりなんだかこわい。
「ユージェン、忙しいのにすまないな」とおじさん。
「いいさ」と父さまはちょっとぶっきらぼうにいう。
なんとなく、そんなに不機嫌というわけでもない気がする。なんだろ。
「リーシアちゃんは初出場だし、ルールを説明しておかないと、と思ってな」
なるほど。
さすがに村祭りだというのに、死体の山を築いてしまうわけにはいかないものね。
「で、今年出場するのは毎年の面々に、結婚して引退したビョルンにかわってこのリーシアちゃんだ」
「・・・ども」
といって会釈する。
「リーシアちゃんっていうのか。ちっちゃいけど、いくつだ」
って、おじちゃんというにはちょっと若めの人がいうので、右手を広げて「五つ」っていっておく。
「五つか。歳のわりにはいい体格だが、大丈夫なのか」
というので、「うん」とだけ答えておく。
「それじゃルールを説明するぞ。とりあえず近くのものと組になってくれ」とジョールグさん。
話しかけてきたおじさん?の前に立つ。
「まずはお互い、相手の左手首をにぎってくれ」
ふんふん。
「そのまま、手だけで相手を倒せば勝ちだ」
え、それだけ。
「掌以外の部分が相手に当たっても負けになる」
なるほど。斧刃腿や小纒は使えないか。
「じゃ、やってみてくれ」
うん。まずは沈墜勁。体重を落として倒されにくくする。その上で両腕の力をぬく。力みをすてると、力でおさえることができなくなる。そうして左手をあげるとおじさんの右手が逆手になって体制が崩れる。
うん。っと
「おおっ」っとどよめいた。
うん。まあまあいけそう。