第43話 新しい朝
流石に辺境伯領ともなれば宿屋で襲撃されることもなかったけれど、それでも入り口にもたれて眠る習慣はやめられなかった。久しぶりに沸かした湯で体を清められ、さっぱりできたのも嬉しい。夏の旅はどうしても汗がきつい。
2羽のグリフォンは互いに寄りかかるように床で眠った。秋が近くなると羽が生え変わるそうだけれど、まだまだふわふわの雛だ。
東方のヴェイツェンドルフと違ったウェスタヤルト料理はなかなか美味しいものだった。塩気も多くて、なんだろうか、少し変わった香りがした。
少し気になって、窓の鎧戸を上げて街を見る。辻に燃える、篝火が燃え尽き始めている。それはそうか、人通りもない夜中にまで明るくしておく必要はない。
夏の夜とはいえ、夜風は少し冷える。
鎧戸を再び下ろして、また扉にもたれる。
今度は眠れそうだ。
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翌朝鎧戸を開けて朝の光を浴びる。
昨夜、体を拭いたあとの冷め切った湯を見やるけれど、垢まみれで流石にこれで顔を洗う気すらしない。
まずは階下に降りて、水を換えてもらわないと。
ご主人に話して桶を出すと、汲みたてという水と換えてもらえた。
皆を起こして顔を洗う。師匠のこの、寝起きの悪さというのはどうにかならないものか。フィルさんも諦めていないで・・・。
身支度を整え、ピーちゃんとキューちゃんの毛並みを整える。今日もふわふわだ。
階下に降りて食堂で軽い朝食をとる。少し硬いパンと、昨夜の残りのスープを温めたもの。一晩寝かせたスープもこれはこれで美味しい。
これから領主様である、ウェスタヤルト辺境伯にご挨拶に伺わなければいけないので、ちょっと緊張する。
鎧下をつけたあと、銅鎧、膝、肘、足甲をつける。盾を持つ前に、腰に剣を吊る。旅装ではそこまで重装備することはないけれど、こういうことは大事だ。
宿の主人に道を聞いて、追加で少しお金を置いておいてから、皆で出かける。
武装状態でゾロゾロ歩くのは衆目を浴び、田舎者丸出しで少し気恥ずかしいけれど、仕方がない。
辺境伯の館はもはや王城に匹敵する威容で、街を流れる川から引いた水で満たされた堀、石積みの土台に建てられた、漆喰の塀が美しい。正面に回ると細い橋がかかっているが、王城とは違って落とせる木橋ではなくこれまた石造りだ。かなりしっかりしている。
橋に近づくと、衛兵が誰何をする。
またも王の証書を提示して、通過をする。昨晩のうちに連絡があったのかもしれない。2羽のグリフォンにも咎めがあることなく、通過を許された。
門衛は二人が二人とも、後ろのメルさんの後からついてくる。
なんだかリーシアは悪いことでもして捕縛されている気分になってしまった。
閉じられた門の前で衛兵が開門を呼ばわるのをなぜだか絶望的な気持ちになって聞いてしまった。




