第42話 郡都ウェスタヤルト
翌日は、日の沈む頃には郡都についた。ここがミュルクヴィズ西のウェスタヤルトの中心地。都市の境は盛り上がり、連なる丘のようになっている。
ウェスタヤルトはほぼ円形の領地で、境界には連丘があり、ここが守りの要になっている。
周辺からの街道は丘の縁に至ってつづら折れになり、丘を登る。これだけでもこの都市が堅い守りを誇ることがわかる。ワゴンを引く二頭のロバ、リーシアたち。そして2羽のグリフォンも流石に息が荒い。
反対側の丘も、このようになっているのだとすれば、攻め込まれても易々と落とされはしないだろう。
坂は上に登るにつれて急になり、頂付近ではほぼ壁だ。と思ったら本当に城壁だった。これだけの連丘があるのにさらに城壁を築いている。顔を上げて城門を見れば、まさに圧倒されるという表現が的確だ。
門兵はリーシア達をずっと見ていてくれていたのだろう、門を開けたままでいてくれた。
「止まれ、何者か」と、誰何される。
「ミュルクヴィズ王の騎士リーシア。こちらが王の証書だ。領境の検札はこちらに」と、ウィリアムのサインを示す。
「ふむ・・・」と、僚友の松明の明かりで書類を確認する。
「魔道士・・・?グリフォン!?」
と、賢くなった2羽が、「ピー!」「キュー!」と主張する。
「や、やあ・・・」と、師匠が釣られて声を出す。
ピーちゃんもキューちゃんも、かなり体は大きくなっている。まだまだ綿毛に覆われていて、全然飛べはしないけれど、翼をパタパタ羽ばたいてかわいい。
「偉い偉い」と言って、つい、干し肉を与えちゃう。
「鷹のヒナにしては大きいな・・・」
「それはもう、グリフォンですから」
「承知しました。通っていただいて結構です」
「はい、ありがとうございます」
と、通過して行った後で、門扉が重々しい音を立てて閉じられて行ったのがわかった。はるか眼下に街の明かりが見える。これはまた、他所では見れない絶景だ。王都でもこんな景色は見れなかった。街の辻のあちこちには松明で焚かれた明かりがつき始めている。
黄昏時の夏空は次第に暗くなっていき、雲が見えなくなっていく。
またもやつづら折れの坂道を下って、街に降りていく。
街に降りるともう、かなり暗くなっていて、路地は真っ暗だった。見通しは悪くて、正直に言って、手近な宿屋にでもいくしかない。
扉を開けて入ってみれば、昼間の熱が残る空気とそして、街の人らしい客がいる。
「一晩泊まりたいんですけど」って、下手に出てみる。
「いらっしゃい!一晩一人、銀貨1枚。馬がいるなら追加で一頭あたり銅貨2枚です」
「いやいやいやご主人、一人当たり銀1枚は、ロッテンナウでも吹っかけないよ?」とは師匠。ロッテンナウではもっともっと吹っかけられたと思ったんだけど・・・。
「5人とロバが2頭、ワゴンにグリフォンが2羽。全部で銀4枚ぐらいでしょ」
「グリフォン!!!?」
と、店主の声で店中がシンと静まり返ってしまった。
「キュ、キュー?」
逆にグリフォンの方が驚いて萎縮してしまった。
「あー、よしよし、大丈夫だからねー」って、頭を撫でてあげる。
「ほ、ほんとにグリフォンだ・・・」
「グリフォンって言ってもまだまだヒナだから、部屋に上げてあげたいんだけど、ダメですか」と、聞いてみる。
「ワゴンの荷物は補償できないから、部屋に上げてください。ロバは馬車と別に繋いでおいてくださいね」っていうのは、客席に給仕をしていた女将さん。
「じゃ」
と言って、巾着からコインを出してカウンターに置いた。




