第40話 PとQ
ロバを捌いて2羽の雛に与えつつ肉を乾かしながら山を下る。
ロッテンナウに戻れば、流石にもう難儀なことはなく、街のみんなの熱い歓迎を受けた。
特に誰もみたことがなかったグリフォンの雛には皆が熱狂し、2羽の雛が怯えきってしまうほどだった。2羽とも「ピー、ピー」「キュー、キュー」と啼いて、リーシアたちの背後に隠れる。
これまでグリフォンの被害に遭っていた街の人の恨みをぶつけられなくてよかった。
食糧についてもグリフォンの巣にあった金が足しになる。
宿に戻ればこれまた大歓迎で、留守中に西からきた商人に酒をおごられ、冒険譚をせがまれることになった。
なにしろゴブリンの討伐から翌日のグリフォン討伐になるので、商人たちの持ち上げ方はすごいものがあった。
中でもゴブリンの首領だった大型のもの、滅多に見ることができないグリフォンの姿については根掘り葉掘り聞かれ、しまいにはリーシア自身の記憶自体が自信持てなくなるほどだった。
夜は当然の様に油断せず、入り口の扉にはかんぬきを欠かさない。カルルは油断しきって、カパカパと盃をあけてヘベレケに酔っぱらい、完全に潰れてしまった。
こういうところだぞ、カルル。
仕方がないので、ふらつく足でカルルを部屋に押し込み、ベル師匠と二人で転がり込む。
扉のつっかえにはさらに雑巾の様になったカルルを立てかけ、開きにくくする。一応、毛布で包んで、体を壊したりはしない様にする。
リーシアは師匠と二人で寝台に潜り込み、今度こそ気兼ねなく眠りについた。
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そこまで気を配って警戒した旅の商人だったが、翌朝を迎えてみれば本当にただの旅商人だったようで、リーシアたちの部屋も別段荒らされたりする様な様子もなかった。
2羽のグリフォンも元気いっぱい朝を迎え、ピーピーキューキューとおねだりがかしましい。
「ところでベル師匠。昨日から生まれたばかりのグリフォンに肉なんてあげてるけど、こんなの食べさせてよかったの?生まれたばかりの赤ん坊なら、お乳とか飲ませなくていいの?」
「ハァ〜〜〜」
「え、なんで、なんでよ」
「いいかい、リーシア。卵を産むものは卵から孵る際には親はそれほど消耗していないんだ。とにかく生き物は出産が1番の負担だからね。卵を産んでから孵るまでに何日もかかるので、その間に親は体力を回復できるんだ」
「へえ。でもそれとお乳になんの関係が?」
「人間の様に卵を産まない生き物は、出産がとにかく負担だから直後は身動きが取れない。それでも生まれた子供に食事は与えなければいけない。それでお乳を与える様になったんだ」
「ああ!
「っていうことは、卵から生まれたピーちゃんとキューちゃんは、すぐに親と同じものが食べられるってことか!」
「さすがに全く同じものは食べられないだろうけどね。餌を取りにいく狩もできないだろうし」
・・・
「それにしてもピーちゃん、キューちゃんか」
「え?なに」
「グリフォンに名前をつけたんでしょ、ピーちゃん、キューちゃんって。
「柄にもなくかわいい名前を」
「柄にもなくってなんだよー。いーじゃないか、ピーちゃん、キューちゃんで」
「いいよ、いいよ。2羽は君のだ。好きに名付けるがいい。私は新しいロバを調達するよ。金を使っても構わないよね」
「もちろん。それと2頭で引ける、馬車も買わない?」
「うーん。いいものがあるといいね」
として、身支度を整えていった。この時カルルは酔いが冷めきっておらず、頭痛を抱えたままふらついていただけだったのはいうまでもない。




