第31話 焚き火
そうしてフラフラうろついているゴブリンを斬り伏せつつ進んでいくと、澱んだ空気が濃くなってきた気がした。じっとりと湿気が体にまとわりつく。2日もいたらなんか自分ではなくなりそうだ。
なんとなく、だけれども、洞窟の最深部が近い気がする。松明を円を描くように動かして、後ろに印を示す。
足音、防具の音に気をつけながら速度を落として進む。湿気に異様な臭気が混ざってくる。ゴブリンの臭いなのだろうが、明らかに人間の、それも牢獄のように長年閉じ込められた人間の匂いもある。汗、垢、そして糞尿。
そして木を燃やす、焚き火の匂い。松明を消して、後ろに渡す。
空気が澱んでいて、長い間いたら気を失いかねない。
焚き火も燻りがちで、明らかに空気が足りてない。これは・・・。
「・・・ベル師匠・・・」
と声をかける。
「この空気の澱みは使えない?」
「炎というのは新しい風を必要にしていてね。その新しい風というのは人が生きるのにも必要なんだよ。ここの洞窟には明らかにその新しい風がたりてないね」
「というと」
「つまり、この空間で何かを燃やせば、それは武器になる」
「その瞬間に切り込む?」
「いや。それだとこちらもその武器にやられてしまうし、有利になるとは限らない」
なるほど。
「なら、炎をさらに燃やして空気を澱ませてから」
「ゴブリンたちが戦えなくなってから一度空気を入れ替え、障りをなくして切り込んだ方がいいね。よし、まずは焚き火にちょっと・・・」
「その前に、ちょっと場所を変えてこんな挟み撃ちにあいかねないところを避けようぜ」
「そうだね、カルル」
と、壁沿いに岩陰を伝いつつ、位置を変える。少し高い位置で、ゴブリンたちを少し見下ろせる。
位置を決めてから、師匠が魔道を発動させると少し燻りかけていた焚き火が僅かに明るくなる。
闇にゴブリンたちの影が浮かび上がり、巣の中とはいえ、明らかに外で見かけた時よりも動作が緩慢な様子が見て取れる。
中に一体、熊並みの体格を持つ個体があり、これがおそらく群れの統率をしているのだと判断できた。一般の個体よりも筋骨逞しく、一撃でも食らえば命も危ういかもしれない。
焚き火の周りに寝そべっていた個体は意識を失い、座り込んでいたものも意識を失い倒れ込む。
首領格の個体も意識が怪しくなってきた頃、ベル師匠に合図を送って、炎の魔道を解いてもらうと、数体のゴブリンが首を傾げつつ、リーシアたちが侵入してきたのとは違う道から帰ってくる。
首領格に合図というか、報告を行なって焚き火を囲む車座に加わるとあくびを始める。
と、洞窟内に風が起こり、炎が巻き上がっていく。首領格は何事かとおもむろに立ち上がり、あたりを見渡す。入り口から風が入り、洞窟の匂いが薄れる。
「もう少し」とは師匠。
と、少し夜目が聞くらしい首領が配下を蹴飛ばしておこし、こちらを指差して叫ぶ。
「見つかった、カルル!」
「おう!」と二人で短剣を抜き放つ。新鮮な風で炎が燃え盛る焚き火がゴブリンたちの影が浮かぶ。
「目を閉じて!」という師匠の声で目を閉じて顔を伏せると、額にものすごい熱気を感じた。
目を開ければゴブリンたちには火が燃え移り、焚き火だった場所は燃えさしが飛び散って、師匠が焚き火を爆発させたらしい。
恐慌に陥ったゴブリンの前衛を切り下ろしながら駆け抜け、手で顔を覆って暴れる首領の腹に切先を突き立てる。即座に飛びすさりざま、膝の腱を切り裂く。
カルルはカルルで首領に蹴り起こされた二体の首を軽々と切り飛ばしている。




