第28話 兵は拙速を尊ぶ
鐘楼に戻ると、鐘楼の大将はまだいて、リーシアたちを見て駆け寄ってきた。
「すげえじゃねえかお前ら!まるで王国の騎士様みたいだぜ」
・・・。かなりがっくりきたので、やむなく剣の鯉口を持ち上げて見せる。
「あ・・・。これは失礼しました・・・」
まあいいわ。
「不問に付します」
後ろでベル師匠がくっくっと笑いを堪えているのも不問に付す。
「とりあえず、数十頭のゴブリンを倒しましたが、逃したものも何頭かいます。
「このまま放置しておいても構いませんが、私たちが出立した後に困ると思います」
「おう、そうだ、です」
面倒だ。
「敬語は不要です」
「そうですか、では。
「奴らは北の山中に巣を作って住み着いているらしい。結構な装備を持ってきたところから、それほど遠くはない、はず」
「ゴブリンは山中の洞穴などに営巣することが多いと聞くね」とはベル師匠。
「洞穴ってのは厄介だね」
「以前に出向いた討伐ではまだ、住み着く前だったな」というのはカルル。確かに。
「洞穴なら灯りが必要だな。武器も槍や剣は取り回しが悪い」
うんうん。
「灯りは僕が魔道で照らせるけど」
「ベル師匠は、他に必要になる時のために、魔道は温存しておいてほしい」と希望しておく。
「それから、この辺の土地勘がないので、巣まではわからなくてもこの辺りの山に詳しい人を二人」
正直討伐で道に迷い、役にも立たずに立ち往生するのは嫌だ。
「わかった」とは大将。「猟師を二人つけよう」
少しでも人数が増えれば道中の危険が減るのは経験済みだ。それに、巣を攻撃している最中、荷物番がいると荷物を全て持ち込まずに済む。
「それから、フォートさんのところにいって、バックラー、短めの剣、胴鎧を借りれないか頼んでみよう」
方針が決まればあとは仕掛けるだけか。油断は禁物だけれど。
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行程は30頭ものゴブリンが移動した跡を地元の猟師が追跡できないわけもなく、割とあっさりと巣が発見できた。
ゴブリンたちの通った獣道が明るくひらけているかと思えば、山腹に開いた入口は黒々としていた。藪をすかしてみると、入り口に見張りがいるらしい。脇に明かりを兼ねた焚き火が燃え始めている。陽はかなり傾いていて、東の空は暮れ始めた。
「どうする?このまま仕掛ける?」
と、皆に問うてみる。
「俺らは反対だ。ゴブリンの方が数が多い以上は、少しでも体を休めて、体力が戻った明朝に仕掛ける方がいい」
というのは地元の猟師さん。
「入り口に篝火を焚いているということは、奴らは僕らの逆襲を警戒しているんじゃないかな」というのはベル師匠。なるほど。
「リーシアは前に、兵隊は素早いのが嬉しい、みたいなことを言ってたな」とはカルル。
「それは『兵は拙速を尊ぶ』という、昔の人の言葉」と言っておく。正直に言えば、いまが孫子の時代より前か後かもわからないけど。
「何万人もいる軍隊の兵士にはあんまり細かい指示を出しても伝わらないし、伝わらない指示なんて役にも立たない。それよりも単純な指示を早く出した方がいいっていう話だよ、大軍の兵士にはね」
「今の僕らには六人しかいないじゃないか」
その通り。
「わかりました。今晩は早めに休んで、明日、夜明け前に襲撃しよう」
皆が頷く。




