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第7話 八極小架

八極拳では、最初の練習に基本練習として、八極小架という、基礎的な套路、型を学ぶ。ただし、李書文はそこに金剛八式という単式練習を組み込んだ。これは形意拳でいうところの五行拳のようなものだ。八極拳にはない練習だが他派との交流の中で知り、李書文が徒弟を訓練するのに取り入れた。

これまでリーシアはその金剛八式を季節が変わるまでおこなってきたが、次第に体ができてきたことが実感できたこともあり、套路をはじめることにした。


小架ではまず技だのは考えずに、体づくりと割り切って、一つ一つを丁寧におこなう。金剛八式ではゆき届かない、わざと技のつながりを丁寧におこなう。


肘打ちをおこなった後の下段突き、諸手突きをおこなった後の肘打ち、こうした「つなぎ」を一つ一つ、丁寧におこなう。震脚は力を下に落とすためにはとても大事だ。


一応は敵を想定して動きはするが、小架はある意味では金剛八式よりも実戦を想定したものではない。

そのために、李書文の系統以外では、小架を最初に学ばせるのだろう。


ゆっくり鼻で息を吸って、打撃と同時に口からするどく吐く。

体ができて、うまく打撃することができるようになれば、こうした意識的な呼吸は必要がなくなってくるが、まだまだリーシア自身、体が全然できていない。息を吸うときには腹をへこませることを意識し、吐くときには一気にふくらませる。


動作は意図的に大きく、強くおこなう。骨も、筋肉もまだまだ強さがたりない。武術では余計な力みが邪魔になり、脱力を意識する必要があるが、そもそもの筋力がなければそれは、その打撃は敵を倒すにあたわない。そしてその力を発するためには、筋肉に負けない骨の強さが必要だ。


まだまだ、たりない。


そうしてしばらく拳を練っていたら、村の男の子が数人、のぞきこんできた。カルルよりは年上だろうか、また徒弟候補だろうか。


「なんだよ!」と、声を発したのはカルルだった。


「何やってんだよお」とは真ん中の少し体格がいい少年だ。リーシアはつい李書文の記憶から、彼と拳を交えたらどうなるだろうかと考えてしまう。

体格のよさから多分、彼はそこそこ腕っぷしに自信があるのだろう。さすがに、大人に勝るとは思えないが、村の子どもたちの中では勝てるものはいないだろう、リーシアを除いては。カルルでもまだ難しいに違いない。


「武術だよ!」


「武術ってなんだお」


ふん。練功の手を止めてあらためて見やる。

スタスタと近づくと、


「な、なんだよ」とわずかに怖気付いたようだ。半歩あとずさり、両手が軽く握られ胸前ぐらいにあげられる。構えというほどのものでもない。


力を入れすぎて怪我をさせるのもまずいので、歩を進めながら右手をのばして少年の手首を胸ごと下に押しさげる。

「こういうことさ」


とすんと軽い音がして少年が尻もちをついた。ふむ。かげんはうまくいったらしい。


北京から訪ねてきた武術家との試合ではこれで一人を屠り、もう一人の肩を砕いて再起不能にしてしまった。史書に記載されたときには相手の頭を砕いて殺したことになっていて、さすがに頭は砕けないぞと笑ってしまった。


「たてる?」

と聞いて、手をさしのべる。


少年は手をみるとそのまま後ろへいざり、立ち上がると飛ぶようにさっていってしまった。


振り返るとカルルが目をキラキラさせて見つめていた。

やれやれだ。

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