第20話 一招
なんとなく、話の流れからちゃんと見せないといけない流れになってきたので、
「では・・・」と言いながら、外へと移動する。
魔道士さんを外に連れ出すために、なんと塔に仕えていた人たちも、手の放せる人がぞろぞろと出てきてしまう羽目におちいる。
二桁には達しないけれど、こんなにいたのかという人数ではあった。
塔の前の石畳で、足元の硬さを確かめ、一旦四六式に構える。
「まあ、大したことはないんだけど」
と前置きをして、前足を進めつつ前の右手をまず上から打ち下ろす。
震脚の後、左の後脚を引き寄せながら、左虎爪掌を打ち下ろす。
左後脚を震脚すると同時に右掌打を打ち込む。
即座に右足をすすめて右手を曲げて、肘打を打ち込む。
実戦でこの通りに使うわけではないけれど、まあ、これが「套路」になる。
右左を交互に数回見せると、見物していた人たちは皆、シンと静まり返っている。
ザオベルさんを振り返ると、
「こ、これは・・」と、言葉が続かない。
「まあ、この技術自体は実は、大したことではないんですよ」とは言っておく。
「それはなぜ?」
「そうですね、簡単に言えば、どんなに小技を弄しても、当たった技で相手を倒せなければ意味がないってことです」
「うん」
「技というのは結局、相手に当てるための工夫でしかなくて、いくら当ててもその打撃で相手を倒せなければ、結局相手に反撃してやられます」
「なるほど!」
「ですから私は、何よりも初撃で相手を倒し、無力化することを第一に考えます。
「まず第一に鍛錬するのはこれ、です」
と言って、起式からの冲錐を見せる。
「遠くを突く、という意味の名を持つ技です。これをひたすら繰り返します」
「なるほど」
「ですので、こうして、基本の姿勢でいくらでも立っていられる脚力を養います」と言って、騎馬式の站樁を見せる。
「その突きで、たとえばこの人を突いたらどうなる?」と、ザオベルさんは使用人の中で一番最初に出てきた男性を指す。
「ええ、すみませんけど、ひと突きで死に至らしめる自信はありますよ・・・。
「ベルンハルトさんもハルトさんも、こう言ってはなんですけど、一応は死なない程度で戦ってますので・・・」
「そうなのか、その威力とやらをぜひ見てみたいんだけどなあ・・・」
「無茶を言わないでください。必要もないのに人を殺したいほど壊れていないつもりですよ、私」
「そうか・・・。ぜひみてみたいんだけれどもなぁ。
「そうだ!これからはこの辺りは冬になり、雪が積もって西に行くのは大変になる。
「だから、この冬をぜひ、この塔で過ごして、春になったら私を連れて行ってくれないか。
なんと!びっくりしすぎて、返事ができない。
「いいだろう?
「それならば、この冬、塔に止まっている間、私が魔道の手解きをするよ」
「それは俺も教わっていいのか」とはカルル。
「構わないさ。私は一応これでも、この人たちにも魔道を教えているんだ。その教授料の代わりに農作業や身の回りの世話を手伝ってもらっている。
「徒弟が二人増えるぐらいはなんでもないさ」
「よっしゃ、乗った。これからよろしくお願いするぜ、ザオベル師匠」
あ、ええと・・・。私は何にも返事してないんだけど・・・。
まあ、それで何か、損をするわけでもない。いっか。
と、この魔道士の塔に一冬逗留することになった。




