第19話 魔道士ザオベル
ザオベルは貴族のような勿体ぶった物言いは好まないようで、ズバズバという。
「ヴェイツェンドルフというと確か、東にある農村で、騎士などを輩出できるような土地ではなかったと思うけど?」
確かにリーシアもカルルも、別に騎士の家系じゃないのでちょっと答えに窮する。
「え、ええと」
「それに確か、金で身分が買えるほど裕福な土地でもないと思ったけど」
これも痛い。
「ひょっとしてあれかな?並外れた膂力の持ち主・・・にも見えないね」
「あ、ああ・・・」
これまでは割と、それなりに世渡りをしてきた自信もあったし、神槍李の人生経験もあったのに、こうしてどんどんおしゃべりをしてくる人は慣れてない。
「私には少しばかり武技の心得がありまして・・・」
「武技!
「・・・武技と言っても、なまじの技では力の優劣は覆せないと思うけど」
「はい、確かになまじの技では無理でしょう」
「ということは、リーシア?の技というのはなまじのものではないということかな」
「まあ、自分を誇るのは苦手ですけれども」
「リーシアはこれでも騎士様に出資する際に仕えてた騎士さんを一人、引退させてるんだぜ」
「しっ!こら!」
と、叱責しても遅い。全くもう。
「騎士を引退?それはまた・・・ハッタリをかますにしても程度というものがあるだろう」
「なんだと!」
「カルル!」と、激昂しかけたカルルを宥める。
「申し訳ない。カルルは同輩ながら少し短気なところがありまして・・・」
せっかく得られた奇遇を失うのも惜しい。
「とはいえ、残念ながらハッタリでもございませんで、当時は私は八つでしたけれども出仕した際の腕試しで、リチャード様にお仕えしていた騎士様お二人、ハルト様とベルンハルト様とお手合わせの上、お二人を倒させていただきまして」
「え、まさか、本当のことだったのかい」
「ええ、ベルンハルト様は股関節を悪くしてしまいまして・・・」
「へえ!そのベルンハルトというのはどのような騎士だったのかな」
「私はその時にしか会ってないので詳しくは存じ上げませんけれど・・・。カルル?」
「普段から仕込み鎧を着込んでいる変わった騎士さんで、着慣れたら鎧も服も一緒、なんて言ってました」
「「普段から!?」」
思わず一緒になって叫んじゃった。ザオベルさんと顔を見合わせる。
「あ、あの鎧って確か、全身のあちこちに刃物が仕込んである、危険物だよ!?」
「そうそう。あれってこう、つまみをひねると出し入れできるんだよね」
「出し入れできるって、それにしても・・・」
「君はその、普段から刃物を仕込んだ鎧を着込んで暮らしているような危ない人を倒したっていうのかい!?」
「え、ええ、まあ。
「それにその時にはそんな人だとは知りませんでしたし・・・」
「驚いたね。そんな人を倒せるなんてまだ信じられないんだけど」
「ええ。ベルンハルトさんには絶招を使わせてもらいました」
「ゼッショー?」
「ええと、まあ、奥の手?」
「必殺技、みたいな?」
「ええと、虎が山を掴む、みたいな?」
「なんだかよくわからない名前だね」
「八極拳の招式は、どんなふうに練習したらいいか、という要領で呼ぶんです。猛虎硬爬山はこう、手を虎の手のようにして引っ掻くように敵を打ちます」
と、杷子拳で打ち下ろすところを見せる。
「そんなに威力があるようには見えないけど」
「すみませんが、ここで威力を出してしまったら、床が抜けて、わたしたちが怪我をしかねないので」
と笑って誤魔化しておく。
「ほうほう・・・」
あ、やりすぎたかな。魔道士さんの目が変に光ってるよ。




