第16話 従士クロドヴェク
待ち焦がれた領主様の使いは、村長一党を縛り上げ、村人からこれはというものを選んで世話させてから二晩を村で過ごしたあと、やっと着いた。
村から出した使いのものの他に、おそらくは領主の従士が同行している。
「お忙しい中、ご足労いただき誠にありがとうございます」
相手が従士である以上は身分としては騎士のリーシアの方が上になるが、むやみに威張っていいことなんて何もない。神槍李の経験でもそうだった。そこには神槍李としての記憶が異議を唱えるけれど、リーシアと李書文では性格が違うので、リーシアとしてはそこはもっとやりようがあったのではないかと思うのだ。
この他人の記憶があるというのもなんとも面白い。
「貴方様が、王騎士、リーシア・ヴェイツェンドルフ様ですか」
「そうです。こちらが同輩のカルル・ヴェイツェンドルフ。同郷なので、夫婦というわけではない、まだ」
この辺はなんだかはっきり言えないもどかしさはあるけど・・・。
「詳しい話はこちらで」
と、クロドヴェクと名乗った従士を村長宅に案内する。
村長、襲撃者の男二人、3人の村人を交えて事情を説明し合う。この時、リーシアとカルルは、できるだけ想像や予想を避け、事実だけを怒った順番に説明した。
村に入る前に、盗賊に襲撃され、撃退したこと。
村に入ると村長宅に泊まったのにも関わらず、夜襲、特に部屋に襲撃を受けたこと。
襲撃者が「村長に指示された」と言っていること、それを村長が「知らない」と言っていること。
当然だが、ここまで聞かされれば、村長が首謀者となってリーシアを夜に襲撃させたところまではわかる。問題はなぜ襲撃させたか、だ。
そこまで理解した時に、従士クロドヴェクは一つのことに気がついた。
「ところでリーシア様。こちらの村人はなぜ、この場に呼ばれているのでしょうか」と。
そこで事情通の男にリーシアが話をするよう促した。
「村長は村の乱暴者を集めて、通りかかる旅人を襲わせていたんです」
「なんと!」
「私がかの襲撃者を撃退、討伐した上、討伐の物証を持っていたことに気がついて、仇討ちでも企てたのではないかと、これは勝手な邪推なのですが」
と、決めつけないように慎重に発言しておく。
「私は何も知らない」というのはやはり村長。
さて。
「領主様は、リーシア様が騎士様と確認できたのであれば、裁定を一任するとおっしゃっています。ここまでの段階でリーシア様は法の遵守については問題のない方だろうからと領主様も仰せです」
「承知いたしました」
と、裁定を一任するという内容の書類を羊皮紙に書き起こし、領主様の名前を入れ、代理人欄を作成した。
「それではここに、従士様の署名をお願いいたします」と、文字の読める村人に書面を読み上げさせた後で、2枚の用紙とペンを渡す。
一部はクロドヴェクさん、年齢的には君かもしれないけど、に持ち帰ってもらわなくてはいけない。これでようやく明日には出立できるだろう。
そうだ、せっかくだから、裁定そのものを文書として残しておいた方がいい。
書類仕事を終えてからリーシアは、眠りについた。




