第6話 金剛八式 劈山掌/圏抱掌/虎抱/探馬掌
第五招式は劈山。準備姿勢は降龍とほぼおなじで手が開掌になる。
では冲錐と川掌のように拳打を掌打にしただけかといえばそうじゃない。川掌が掌根、つまり手首にちかい、つけ根のあたりで打つのに対して、劈山掌はてのひらの側面をつかう。
また、打ちつけるのではなく、劈つまり、手前から奥に斬るように、こすり上げるようにつかう。
回身式は特別な動作はなく、向きを変えるだけ。
あれ以来、あの男の子がリーシアの鍛錬にくっついてきてはなれない。
カルルと名乗った男の子はリーシアをまねる。金剛八式をするが、当然、全然おぼつかない。筋力が全然たりないことが理由だが、リーシア自身の鍛錬も足りてるとはいえないので、ここはあえて口を出さない。
カルルよりは随分太くなったリーシアの腕、足が套路(とうろ:武術の型のこと)に安定感をもたらすのだが、昨日始めたばかりのカルルに求めるべくもない。
とはいえ、昨日とちがって黙ったままひたすら練拳に打ち込む姿勢は好ましい。
劈山も数日打ち込んだらだいぶ勘が戻ってきたので、圏抱掌をはじめる。圏抱掌はある意味でとても八極拳らしからぬ套路で、李書文の系統を特徴づけるといってもいい。
立った状態からすぐに技法に入るのも特徴的だ。
体を軽く沈めてから、左手を開掌にして、左方向に下からすくい上げていく。上体も大きく掌の方向にかたむけて、右掌は後方にさしだす。
伸ばし切った体を大きく縮めて、剄をため、全身を上下に大きく伸ばし旋転させるように回転させる。
体の向きは入れ替わり、左拳、右拳の順に打ち下ろし、揃えた足を曲げ、向かい合わせた拳を胸前に構える姿勢になって終了する。
右圏抱掌はこの姿勢から右掌をすくいあげていく。
第七路は虎抱。
準備姿勢から軽くはね、両拳を体の前で縮める。と同時に両足を交差させ、体を回転させて胡坐になる。この状態から飛び跳ねつつ両拳を左右に下から開いて打ち上げる。ちょっと滑稽な動作だが、これが重要な発勁鍛錬となる。
第八路は探馬掌。
起式から右虚歩になり、右掌を招くように構えて左掌を右肘の下に構える。この状態から左足の震脚と同時に右足をすすめ、右掌を真っ直ぐ前に打ち出す。弓歩になった右の前足をそのまま震脚として使い、左足をすすめると同時に構えたままだった左掌を真っ直ぐ前に打ち出す。この右、左の連打が右探馬掌になる。左探馬は左から右への連打になる。
これで李氏八極拳の基礎套路、金剛八式をすべてこなしたことにはなる。まだまだ「こなしただけ」だが、こなせないよりはまだマシだ。
カルルはまだまだ見よう見まねなので、右足と左手が同時に出たりするがそれでもいい。