第12話 野盗
明らかにうろたえている5人の野盗は倒された二人をちらちら見やりながら、剣を構える。これまでに先手を取られたことがないのだろう。ここで単に蹴散らすのは簡単だけれど、リーシアはアジトを突き止めたいと思った。
カルルに「一人は泳がすから」とささやく。
「ん」という、返事を聞いて、二人で槍を構えて前進する。
すでに及び腰になっている野盗は、じりじりと下がる。
とはいえこのまま逃げられては、追跡ができない。ここは槍を下げて、隙を見せる。中央で一人、後ろに控えている男が首領なのだろう。首領だけは手下よりやる気がありそうだ。
穂先を下げてもかかってはこないか。
ならば、と、槍を振り上げて担ぐ。男たちがたじろぐが、あからさまにリーシアたちになめられていることが理解され、ちょっとした怒気がはしった。
「くっ、こ、この・・・」
「尼っ子がなめやがって・・・」
首領格だけは
「油断はするなよ」と警戒するが、伝わらない。
剣を正面に構えたまま、じりじりと間を詰めてくる。カルルと二人で二人ずつ倒せばいいのだから、なんとかなるはず。
野盗たちは目配せをして、一気に切り掛かってくるが、わかりやすすぎる。
「イイェアアアー!」
軽く右足を引いて体をさばけば、空を切った剣先は地面を叩き、湿った音を立てた。立て直させる間を与えずに踏み込んで、左掌を驚きが張り付いたままの顔面に叩き込む。
グキリと頸骨が砕ける手応えがあり、力が抜けたのがわかった。
もう一人が剣を横薙ぎにしてくるが、これは最初の男の背中を盾にして受け、振り下ろした槍で打ち倒す。さらに盾にした男の体に衝撃があり、藪の中から矢が射込まれたことがわかる。
左手にぶら下がる、男の体が臭くて重い。
藪の中から木の葉擦れの音が聞こえ、射手が逃げ出したのがわかったので、盾にした男を脇に投げる。
カルルはといえば、最初の男は槍の柄で打ち倒し、もう一人を抜剣した上で袈裟斬りに斬り倒していた。
首領に振り返って、槍は地面に落とし、
「それで?」と問いかけてみる。
「く、くっそがあぁ!」
と、斬りかかってくるので、踏み込んで剣の柄を掌打で防ぎ、胸を拳でついた。
「グボッ!」
と息を吐いて、男が倒れ込む。
とりあえず意識を刈り取った首領をそのままに、
「そっちはきちんと殺した?」と、カルルに確認する。
「大丈夫だ」というカルルの返事を確認し、気絶したままの首領を転がして、武装を解除していく。剣、小刀、籠手、脛当て。そうそう、靴もきちんと確認しておかなくては。
靴鎧に痛い目に遭わされたことは、忘れちゃいないから。
首領の革帯を使って両腕を後ろ手に縛り上げ、男たちの飲み水をかけておく。
ぎっちり縛り上げた後の革は濡らしておくと縮んでさらにきつくなり、抜けにくくなる。
6人の手下は改めてきちんととどめを刺し、首領の周りから武装を取り除けた状態で首領を気つけした。
「ガッ!ガハッ!」
と、首領が息を吹き返す。
「て、てめえ・・・」
と睨めあげるけれど、
「手下はすでにとどめを刺してある」と、機先を制しておく。
「近くにアジトがあるはずだ。案内しろ」と、立たせる。
「うぐぐ・・・」
「カルル、鈍気と荷物を頼む」と言い置いて、首領に案内させた。




