第11話 西へ
ミュルクヴィズから旅立ち、西に向かうと、いくつかの村を経てウェスタヤルト辺境伯領に至る。村と村の間にはそれぞれ徒歩で何日もある間道が山間を縫うようにはっている。
二人はまだ、旅立って二日目で、最初の村にも辿り着いてはいない。流石に王都から1日では道中に不安もないだろうが、二日目ともなると、野盗や獣の類が現れかねないいたずらに警戒しすぎて旅程が進まないのも困るが、油断によって命を落としたくはない。
夜道を進めるのならこれに越したことはないけれど、足元の不安からそうもいかない。昼間に進んで、夜はやはり野営をするしかなかった。秋も深まり、積もりに積もった落ち葉が進みを遅らせる。それでも王都から辺境伯領への街道ということもあり、往来の跡があって、道を迷う心配はなさそうだ。
木の影、曲がり道には気をつけながら進んでいく。
先行するのはリーシア。そしていつものように荷をくくりつけられた鈍気。そしてカルルが殿を務める。こう落ち葉が深いと、鈍気の蹄の音も響かない。
それなりに緊張した道行ではあったけれど、二日目の行程は無事、日暮れを迎える。夜には流石に盗賊の心配はないだろうが、逆に狼などに襲われる心配があるので、焚き火を起こして交代で眠る。
朝になり、眠気の残る目を擦り擦り、川を探すがなかなか見つからない。やむを得ず、手拭いでふいただけで野営跡を片付け、出立する。
燃えさしは十分に踏みつけて、山火事などが起きないようにしておく。荷造りの間も一人が武器を携えて警戒は怠らない。この辺りは二人にとってはいつものことだ。
三日目ともなると、つい気が緩みがちになる。あらためて気を引き締め、再び西に進む。
昼前になると、山間に気配を感じ、カルルに盾を掲げて印を送る。カルルは了解した印に、石突で目についた石を連続して小突き、音を立てる。
街道脇の右の斜面に、木の葉擦れの音が聞こえた。獣か、それとも野盗の類か。
獣であれば、昼間の街道で襲うというのもやや不自然か。野盗であるならこの木の葉擦れは囮の可能性もある。鈍気の背には振り分け荷物があるので矢を受けても通らない可能性が高い。木の葉擦れが右側から聞こえたのだから、右から矢を受けるとしたら、木の葉擦れのあったところだろう。左からの矢なら、盾で防げるはずだ。
動いている相手に矢はまず当たらないから、歩みを止めずに進む。
と、弦音が響く。
威嚇して足を止める手か。数歩離れた地面に矢が突き立つが、さらに無視すると、ガサガサっと斜面の木の葉を滑って汚らしい男が街道に降り立った。
足を止めれば弓使いに狙われるので、街道を塞ごうとする野盗が体制を整える前に槍でつく。流石に虚をつかれ、男は胸に槍を受けてのけぞった。
「な!?」
「なんだてめえっ!?」
「いきなり斬りかかるとか正気か!?」
などと動揺が走るが、野盗ごときに同情はいらないし、前後を挟まれて身動きが取れなくなるのは困るので、まずは前面を突破する。
街道を塞ごうとしている二人目の喉に槍の穂先を突き立て、即引く。
足元が不安なのは相変わらずなので、走らず、それと言って歩を止めず、突き進む。前面の三人目の男は辺りに血飛沫を撒き散らす仲間に怯えて、
「ヒイィっ!」
と、悲鳴をあげて脇にどく。さらに進めば、前の野盗を突破した。
脇にどいて、鈍気を通し、振り返る。
盾を構えながら後ずさってきたカルルの脇に立って、「ありがとう」と声をかける。
「てっ!てめえら!いきなり突くとか頭おかしいんじゃねえのか!」と叫ぶ野盗どもは5人だった。リーシアの突いた二人はまず、助かるまい。




