第10話 和解
リーシアはカルルの襟首を掴んで引きずりつつ、止むに止まれず訴えかけた。
「カルル、カルル」
返事はない。
「わかりますか、カルル。なんで私がこんなに起こるのかわかりますか」
「私はね、カルル。
「カルル。私はあなたに私が誇る騎士であって欲しいんです、カルル」
「わかりますか。自分の失敗をわかっていながら、少しばかりの見栄でそれを認められないような人にはなってほしくないんです、カルル」
視界がにじんでくる。このままカルルが自分の過ちも認められないような人間になってしまったら、あまりにも悲しい。カルルの父様に申し訳が立たない。
「わかりますよね、カルルなら」
「これぐらいのことでって思いますか、カルル」
「ちょっといい気になった程度のことで大したことじゃないって思いますか、カルル」
「でもね、でもね、カルル。人間っていうのは誰かにやられたことっていうのはいつまでも覚えているんですよ、カルル」
リーシアの脳裏には前世の記憶がよみがえる。前世の李書文は大勢の人から恨みを買っていた。穏やかに談笑していたのに、得意技の説明をしたときに誤って死なせてしまったことさえある。此度の若気の至りでちょっと不愉快にさせた程度の話とは比べものにはならないが、それでもなにを恨まれるかなんて恨まれる側にはわかったものじゃない。
「だから、だからね、カルル。
「目上の人には絶対に恨みを買ってはいけないのよ、カルル」
「私が尊敬する騎士は、そんなつまらないことで見栄を張るような人じゃないのよ、カルル」
「・・・」
「わかるでしょう、カルル。私がそんな人を大事に扱わないことが、わかるでしょう」
「私がカルルを大事に思っていることがわかるでしょう、カルル」
鼻声になってしまって、言葉がはっきり聞こえないかもしれないけれども、仕方がない。
建物の壁に近づいたので、扉を開くべく一旦槍を置く。
取っ手を掴んで引くと、
「リーシア」
と、カルルの声が聞こえた。
見やると
「ごめん」とカルルが謝った。
「カルル!カルル!」
「悪かった。俺が悪かったよ、リーシア。ちゃんと謝る」
というので、二人連れ立ってまずはカルルが打ち倒したグンタハールさん、リーシアの打ち倒したアルヌルフさん、マンフレートさん、フランクさんに会い、謝っていった。マンフレートさんはもちろん、どの騎士も皆復調しているようで、二人はホッと顔を見合わせたけれど、二人と謝りに行った騎士たちも二人のあまりの御面相につい吹き出してしまう始末だった。
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さてこうして王ルートヴィヒの騎士たちとのわだかまりをのぞいた二人は、数日経って顔の腫れ、あざが消えてからめでたく、再び謁見の間において、ルートヴィヒ自らの叙任を受けたのだった。
鞘に収められた剣、そして兜をさずけられ、叙勲章を胸に留めた二人は、ミルクヴィズの地を旅立ったのだった。
 




