第9話 仕置き
目が覚めるとまた同じ寝台の上だった。布が敷いてあり、普段の寝藁と比べると柔らかくてとても寝心地がいい。生まれ変わってからこっち、こんな寝床で寝たことなんてない。顔はまだ相当腫れぼったいけれど、触らなければ痛みはない。
口の中の傷はもうふさがっているみたいだ。血生臭いのは変わらない。起こした半身で周囲を探る。カルルは脇の寝台で眠っている。
眠っているなら仕方がない。窓の鎧戸を見ると、外は暗いようで、夜のようだ。
荷物は全ては宿から持ってきてはいないらしく、身の回りの品だけが部屋の隅にある。確かにあまり何でもかんでもは持ってこれないのは確か。
ふう。リーシアは再び、毛布をかぶって眠りについた。
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翌朝目覚めると、カメに汲んであった水を使って顔を洗い、カルルを起こす。顔はまだちょっと腫れているのがわかるし、こすって洗うのはちょっと痛い。
水気も布で押すようにしてとる。
「んぅ」
「カルル、おはよう」
「ん・・・。あ」
カルルは前からリーシアに比べて朝が弱い。まあ、今朝についてはリーシアの看護疲れもあるとは思うけど。
カルルが顔を洗ってスッキリした頃に、
「騎士様に謝ってきましたか」
と、問うてみる。
「ん・・・、ううんん・・」とはっきりしない。
「謝ってきてって言ったはずだけど?」
どうしても少し、声にトゲがにじむ。
「い、いや・・・」
「謝ってないのね?」
「う、うん・・」
「どうして?」
「リーシアの様子も見なきゃいけなかったし・・・」
「うん?」
「あいつはリーシアを殴ったんだぞ!」
はぁ・・・。思い切りでかいため息をついてしまった。
「私を殴った騎士は、私が倒しました。
あなたの相手をした騎士は別の人です」
「あ」
今頃気がついたって顔をした。
「で、でも・・・」
ああ、もう、わかった。
「槍を持って表に出なさい!」
廊下に出て、表はどちらかをみる。カルルがそっと指差す方に進んでいく。表に出るとカルルが持つ二条の槍から一条を受け取って構える。宿から持ってきた、二人の歩兵槍だ。穂先には覆いがつけられたまま。
もたもたしているので
「構えなさい」とうながす。
構えたところでまだもたもたしているので、
「突いてきなさい」という。
ノロノロと穂先が上がるので、石突で叩き落とす。
「もっと!」
持ち上がった穂先をまた叩き落とす。
2度も落とすと流石に半端な持ち方をしていた手が相当痛くなるはず。きちんと持っていた方がいい。
さらに持ち上げようとするのを今度は巻き落とす。まだ納得してない。
「私を殴った騎士と違う人を小馬鹿にしたことを謝りますか?」
返事がないので、今度は石突でカルルの額を軽く突く。瘤ぐらいはできるだろうけど、流血沙汰にはならないはず。尻餅をついて倒れたので、
「立ちなさい」と冷たくいう。ノロノロ立ち上がるのに、「謝りますか?」と問いかける。
まだ「自分は悪いことをしてない」という目なので、槍で上から叩く。
「私たちはこれから戦場に立つのです。彼ら、王の騎士と共に!」
リーシアの声で何やら人が起き出してきたらしい。ちょうどいい。
「王の騎士に力を認めてもらうのはいい。だけど、馬鹿にしていい相手ではありません」
と言いながら、がん!がん!と槍で叩く。
カルルはもはや、槍を取り落として、両手で頭を庇うことしかできてない。その腕をさらに叩く。
「立ちなさい!」
と言ってももう、カルルが立ち上がれなくなったので、槍を左脇に抱え、襟首を掴んで屋内に引きずっていった。




