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第8話 カルル、圧倒する

やけにたくさん出る唾は、少し舌で触ってみたら頬の内側を歯で切ってたことがわかった。舌先が当たるとずいぶん痛い。まさか、王様のいる謁見の間で、唾を吐くわけにもいかないだろう。


瞼が重いのは相変わらず。


新たな騎士が、壁に立てかけてあった槍の中から二条とり、一条をカルルに渡す。カルルは槍を受け取り、四六式に構える。騎士様もほぼ同じ構えで、違いはわずかだ。槍の先端には金属の穂はついておらず、布で包んだワタが詰まっているらしい、訓練用のいわゆる打包たんぽ槍だ。


互いに離れた状態から離れ、穂先を交える。「カツッ」っと音がしたと思えば、カルルの穂先が騎士の額をついていた。


カルルの槍は速いことは速いが、ああいうところがよろしくない。プーハオだ。機先を制するのなら、当てちゃいけない。実戦じゃないんだから。


軽く突かれただけの騎士様はものすごい唸りをあげて、二、三槍を一息に突き入れるものの、カルルに軽く捌かれている。


普段リーシアの相手を務めているのだ、それはそうなるだろう。とはいえ、カルルの欄はまだ弱い。これでもっと相手の槍を弾いて、姿勢を崩せなければいけない。


騎士様は槍を突くだけではなく払ったり、上から叩いたり、波打たせたりするけれど、カルルに届かない。カルルも真剣そうな表情をしているけれど、実際には余裕なのがみてとれる。なにしろ普段の練功では今振るっている槍の倍以上は長さのある大槍を使っている。この程度で遅れはとるまい。


とはいえ、この辺りの挑発的な態度をとりがちなカルルはあまりよろしくない。後で言って聞かせなければ。


と、なんだか謁見の間がゆっくり揺れ始めたみたいだ。床がどうも傾いている。と思えば逆に傾いている。踏ん張ろうとするが、どうにも力が入らない。

カルルはまだ、いらない挑発的な態度で戦っている。


あれ、あれれ。


--------------------------------------------------



気がつくと、何かに仰向けに寝かされていることがわかった。

目が開ききらないけれど、屋根が暗い。脇にはどうやら明かりが灯されているようだ。

口の中の血は完全に止まり、口の中で固まっている。


ウゲ・・・。


吐き出そうとしたら激しい咳が出て、口から血反吐を吐いた。

上半身を起こして、手の甲で口元を拭う。


「リーシア!!」と、カルルの声が立ち上がる音と一緒に聞こえた。いたのか。

なんだかすごくホッとした。


「く、口・・」


血糊で口が張り付いてしまって、うまく喋れない。


「これを」と言って、カルルが差し出した盃を受け取って口に含んですすぐ。


「これに吐け」と言って大きな皿のような器を出してくる。


「ぅぼゎ」

変な声が出ちゃった。恥ずかしい。


「ありがとう」


「気がついたらリーシアがぶっ倒れててびっくりした」


「倒れちゃったんだ」


「さっさとぶっ倒して、王様にリーシアを運ぶ許可をもらったんだ」


「どれぐらい倒れていた?」


「もう夜だ」


そうか・・・。


それはそうと


「カルル。あれはダメ」


「え、え?」

いきなりダメと言われてびっくりしているけど。

「王様の騎士様たちは、これから私たちと一緒に戦場に出るの。

「それをあんなふうに侮るのは良くない。


「う、うん・・・」


まだわかってないのか。


「変に恨みをもたれたら、戦場で後ろから切られるかもしれないよ?」


「そんなの卑怯じゃねーか!」


「卑怯だろうがなんだろうが、こちらが怪我をしたり、ましてや死んだりしたら私たちの負けなの。わかるでしょ」


とは言ってみるものの、まだ納得した様子はない。


「後で謝ってきてね」


とだけ念押しをしておこう。前世から数えて、殴られて気絶するなんて、どれぐらいぶりだろう・・・。


またスゥッと意識が薄れた。

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