第5話 無傷
「では始めるが良い」
と、王様の許可がおりたところでマンフレートさんの方にむきなおる。どっちにしたって、騎士を名乗る以上はこれぐらいの意気がなければならないだろう。
正直に言えば、剣よりは槍の方で戦いたいんだけどな、と思いながらも剣を下げる。八極拳の動作は形意拳のように槍の動作を元に作られているので、あまり剣との相性は良くはない。騎士さまの元で剣の修行を怠ったつもりは毛頭ないけれど、やはり槍の方がまだしっくりくる。
マンフレートさんもリーシアと似た構えをしている。と、右手が不意に動いた。
当然即座に体は反応し、剣背に刃先を滑らせるように打ち上げる。軌道をずらした剣尖の下をかいくぐり掌打をねらう。が、敵もさるもの、剣を振り抜かずに切り返し、胴を狙ってきた。おまけに体はしっかり左手でおおい、掌打の打撃はずらされた。
『やる』
もちろん相手の剣は掌打のために引いているのでその勢いのまま、相手の剣背を今度は上から撫で落とす。
と、今度は手首を返して剣先を引っ込め、剣首の部分でついてくる。ここまでわずか一拍子。
音にすれば「カカカッ」っとしか聞こえない。木剣なので当然火花が散ったりはしないが、右掌には相当な衝撃が伝わってくる。
剣首での突きを避けるためにとびすさって距離をとる。
「ふっ」
軽く息を吐く。
「強い」
前世でもこれだけの剣の使い手はそれほどはいない。というかまあ、剣での立ち合い自体をあまりしたことがないけれど。
さて、仕切り直しだ。ヒュヒュッとマンフレートさんが眼前で剣を×を描くように振るう。
リーシアはアルヌルフさんの時と同様に、右手の剣を前に構え、一気に踏み込む。剣を持つ右腕を波のようにしならせて、剣先を連続して突き入れる。
マンフレートさんはこれを剣で払おうとするが、剣を合わせる前にリーシアの剣先が引くので対応が遅れる。
確実にマンフレートさんの意識は胸前にいっていて、先ほどアルヌルフさんが倒された時の一手が拭えていない。
引っ掛けるように右前足を踏み込んでみせ、震脚を響かせる。
ズシンという響きにマンフレートさんの意識が完全に腹の防御にいった。その隙をつき、眉間に剣先を突きつけた。
「ま、参った・・・」
こうしてリーシアは、二人目の騎士を傷つけることなく下すことに成功し、ほっと息をついた。
 




