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第5話 金剛八式 伏虎/村の男の子

金剛八式の三、降龍の次は、第四式、伏虎ふっこ。準備姿勢は右虚歩、右掌を手招きするように構え、左手は右肘の下に下向きにして構える。

そこから右足を震脚してから大きく踏みだしつつ、右掌を真上に振りあげてから打ちおろす。左掌は大きく後ろにひいて、体を旋転させる力の源にする。

挿絵(By みてみん)

左の準備姿勢になる前には一旦、打ちおろした両手を交差させてから、右手は鉤手にして甲を打ち上げる。

回身式はこの鉤手の打ち上げを後方におこなうことになる。


そして伏虎とあわせて刁球ちょうきゅうを始めた。刁球というのはつまり、八極拳流のウェイトトレーニング。泥をこねて手でつかみやすい形の球にしたものを振り回したり、持ち上げたままにして腕をきたえる。

ただ、刁球は丸い形にするだけではなくて、指の形に凹ませておくのが大事。掴みにくくなるから。


泥をこね出した時にはととさまはようやく子どもらしいことをはじめたと顔をほころばせたものだが、結局それがリーシアの鍛錬器具であることが分かればゲンナリしていた。心の中でごめんと手をあわせて、刁球を振りあげ、振りまわす。


すると、これまでおそらく遠巻きにみていた村の男の子が声をかけてきた。

「ねーねー、なんの踊り?」

うー、めんどくさい。


無視だ無視。


「ねー」


無視。


「ねえねえ」


しかたがない。


「武術・・・」ちょっとかんだ。


「うーすー?なぁに?」


う。武術ってなんて言ったらいいんだろうか。


「・・・」

人殺しの方法・・・ではないな。さんざん死なせてきたけど。

素手で戦う方法・・・。でもない。なによりも前世は「神槍」だ。


ふむ。これまで自分はなにをしてきたんだろう。


「強くなる方法」かな?


「強く?ほんとう?」


「試してみる?」

うん。これは自分自身でも知りたいところ。


と、こいつはそれまでしゃぶっていた指を振りまわしはじめた。き、きたない。

とはいえこれはこれで、歩法の鍛錬になる。スッスッと2度ほどよける。手首をつかんで引けばすぐ姿勢はくずれるので、よろけさせるのはかんたん。


子どもを教えたことはあるから間違えないが、ここで転ばせてはいけない。かんたんに泣きだして大騒ぎになるので、ちょっとたたらを踏ませるだけにする。


と思えば「あしらわれた」と思ったのか、目の色に真剣みが混じり出す。

でもあの指にだけは触りたくない。


男の子はまだ突きとして腕を曲げ伸ばすことができないようで、やはり振り回す。これも劈掛掌を学んでいたからこそ対応できることだ。単調にぐるぐる振り回すだけなので、間合いが広くてやっかいといえばやっかいだが、隙に入り込むのは不可能ではない。

そして正面から軽く指でおでこをついて、たたらを踏ませる。

今はこれだけでいい。


「どう?わかった?」

とちょっといい気分になっていってみる。


たぶん、今の自分はイヤな顔つきをしてるだろうなーって気がついて、リーシアはちょっと自分がきらいになった。

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