第3話 幼王
声にしたがって顔を上げると、王座に座った若い王が見えた。足がかろうじて床につく程度。体格はそれほど大きくはなさそうだ。
それ以上見つめるのは不敬であるとか言われそうなので、視線を落として王のつま先を見るようにする。
騎士さまからの書状を見て、声変わりがはじまったばかりらしい無理やり出したような低い声で
「ふむ」とうなずいた。
「騎士リチャードというと、先王が叙任した騎士になるかの」
というと、少し左から「さようです、陛下」という、老けた声がした。この方が摂政とか宰相とかだろうか・・・。
「リチャードはいかほどの騎士だったかの」
「は、それは武芸にすぐれ、領地経営にも手腕を発揮していると聞き及んでおります、陛下」
イライラするけどこれが宮廷の作法なんだろう、がまんがまん。
「なれば、リチャードの認めるこれらのものも、騎士とするにふさわしいと見ていいかの」
「は、概ねそのように理解してよろしいかと存じます、陛下」
「異論のあるものはおるかの」
これは仕方がない手順というものなんだろう。うんうん。
「恐れながら、陛下」
これはリーシアたちの横の方から聞こえた。気づいていなかったけど、どうやら左右の壁際には、王や宰相さん、衛兵とは別の人たちがいるらしい。
「確かにリチャードはなかなかの手練れ。なかなかの剣さばきをする騎士でしたが、その従士まで実力が継承できているかは分かりません」
「なるほど」
「ではどうすればいいかな、オイゲン」
あら、この宰相さまもオイゲンさんですか。あちらのオイゲンさんとは話したこともないので、どう違うか分かりませんが。あちらのオイゲンさんよりは、オイゲン宰相さんの方が年長みたい。
「簡単です。こちらの騎士と軽く手合わせをさせてみればよろしいかと存じます。陛下」
「うむ。あいわかった。たれか、この若武者に力の差を見せつけてみたいというものはおるかの」
これはまた、王さまは挑発してくれますね。
「拙が言い出した手前、私がやるのが良いでしょう」
とは先ほどの騎士さん。なかなか腕に自信があるらしい。
「リーシアともうしたな。立ち上がってこの騎士、アルヌルフと手合わせせよ」
顔をあげ、体を起こすと、騎士さんの方を見る。こうして見るとずいぶん上背があり、大きな口を叩くだけの力はあるようだ。
「他のものは下がっておれ」
というのは宰相閣下。小さく「は」と言って、カルルもたち、後ろに下がった。
「武器はいかがいたしますか?」ととりあえずリーシアは聞いてみた。
「木剣がよいだろう」というのはオイゲン宰相。
「これに」
と、兵士がリーシアに木剣を持ってきた。
アルヌルフ様にも同様に剣が渡される。
木剣は硬い樫のような木材で、単純に武器として使ってもそれなりに使えそうだ。バランスも良く、扱いやすい。
リーシアはこの剣を軽く持ち、左前に構えてみる。




