第2話 王宮
翌朝は宿屋の好意でいただいた湯で体を清め、王宮へと向かう。
旅の垢がずいぶん落ちて、二人で笑ってしまった。
広い通りにはまばらに人が往来していて、李書文の記憶にある天津やいってみれば滄洲の風景と比べて閑散としているけれど、人口何十人の村しか知らないカルルはおどおど周囲を見回している。
王宮が近づくと、なんともすごい悪臭が漂うようになってきた。
王宮を囲む堀を見れば、その理由がわかる。堀を満たしている水が真っ黒に澱んでいる。どうやら川などにはつながっておらず、ひたすら汚水が流れこんでいるだけのようだ。
こんなところに落ちたら、臭いだけで死んでしまいそうだ。汚水だけではなくて、罪人の処刑に使われていてもおかしくない。
しばらく堀沿いに進んでいくと、跳ね橋がおりているのでわたっていく。この瞬間にへし折れたらと思うと、気が気じゃない。
渡り切れば、扉の開いた門に、衛兵がいて誰何する。
槍が目前で交差される。
「止まれ、何者だ」
「ヴェイツェンドルフのリーシア。王にお目通りさせていただき、騎士としての叙任をいただきたくまいりました。先任騎士はリチャード・ヴェイツェンブルク。こちらは私と同じく騎士叙任をいただきたく参ったヴェイツェンドルフのカルル。
「こちらが騎士さまから頂戴した書状になります」
と、懐から書状を取り出し、開いてみせ、すぐにしまう。
門兵と同様に手を伸ばしかけるが、届かない。忌々しげに兵が顔をしかめるが、「通ってよし」と言わざるを得ない。
にっこりと笑って会釈をし、門を通る。
暗い門をぬけ、午前の日が射す前庭を歩いていく。やがて、正面の大きな建物の入り口につく。大きな扉はひらき、暗い内部が洞穴のようにあいている。
入り口に入ると奥にはさらに扉があり、こちらは閉ざされている。
こちらの衛兵は、二人を誰何することなく門の両脇にたったまま。
二人が近づくとうなずいて扉をあけた。
これは通行を許可されたのだと理解し、軽く会釈をして歩を進める。
数歩進むと、
「止まれ」と、衛兵から声がかかる。
振り返ることなく足を止める。
「跪け」
との声で、二人で並んで跪き、顔をうつむける。
暫時そのまままつと、
「王陛下のお成りである」
との声がかかる。足音がして、王座にすわった気配がする。
「面をあげよ」
との声がかかる。思っていたよりも若い、というよりも幼い声だった。




