第1話 王都
森を抜けると、王都ミュルクヴィズの周辺に広がる畑が見えた。ウネウネと波打つ麦畑は土の地肌が続き、まだ芽は出ていない。麦畑のむこうにはわずかに尖塔が見え、リーシアたちが既に監視下にあることがわかる。
カルルと鈍気を連れてテクテクと歩いていくと、畑の農夫たちから警戒心もあらわな視線がふりそそぐ。よそ者が歓迎されないのは当たり前のことだから気にはならない。
夕暮れ前には門前にたどりつく。門扉の前には数人の兵がいて、二人のゆく手をさえぎる。
「止まれ」
別の兵士が「何者か」と誰何する。
「ヴェイツェンドルフのリーシアという。王にお目通りさせていただき、騎士として叙任していただきたく参った。先任騎士はリチャード・ド・ヴェイツェンブルク。こちらは同じく、ヴェイツェンドルフのカルル」
「手形はあるか」というので、懐から出した騎士さまの書状を開いて見せる。
兵士が手をのばして取ろうとするが、素早く丸めて懐にしまう。
兵士はピクリと反応するが、ふっと気を緩めて
「通ってよし」と槍を立てた。
パッカパッカと蹄の音を鳴らす鈍気をひく。
広い大通りの左右の建物は無人のものも多く、明かりが灯るものは少ない。
中でも目立った明かりが灯っている建物の扉を叩く。
「いらっしゃい」
カウンターの向こうから男の声が出迎えた。
明かりが灯る板の間には、三つほどの丸テーブルがあり、それぞれに椅子というのもおこがましい腰掛けが配置されている。
「部屋はあるか。連れがいるので二人部屋。あと、ロバがいるので厩があるといいのだが」
「二階の端の部屋が空いている。厩、夕食も込みで銀2枚と同5枚」
「ふん」
と、辺りを見回す。
前世の記憶が「まあ、妥当な線じゃろうな」というので、懐から銭入れを取り出して、銀貨と銅貨をカウンターに置いた。
「厩はあっちにある」と、親指をクイっとしめす。
「ありがとう」と、踵をかえして表に出、カルルと一緒に鈍気を厩につなぐ。わずかに張り出している屋根が救いになる。飼い葉桶に飼い葉をみたし、手綱を念入りにむすびつける。
荷物を下ろしてカルルと二人で担いで宿にもどり、挨拶をして階段を上がろうとすると、
「こりゃ驚いた!おまえさん騎士か!」
と叫ぶので、「ああ」と返事だけしておく。部屋に荷を下ろすと、鍵をかけてまたバーに戻ってテーブルにつく。窓の外はずいぶん暗くなってきた。
と、扉が開いて門兵が二人、農夫が三人入ってきた。
口々に騒ぎながらカウンターやテーブルにつく。あっという間に店は満員となり、わいわいと騒がしくなった。
兵士たちから遠慮なく応援を受け、農夫からさりげない羨望の眼差しを受け、二人は食事をおえて床についた。




