第42話 従士見習い
秋になり、年貢の季節になると、例年のように館に従士見習いが村からくる。騎士さまの差配する村は城下の一つとあわせて全部で三つあるが、今年はそこから全部で2名の出仕希望があった。
聞くところによれば、リーシアが経験した腕試しはそれまでの決まりごとだったらしいけれども、リーシアによって騎士が一人引退の憂き目にあったので、翌年からはおこなわれなくなった。なんと、リーシアだけかと思っていたら、カルルをはじめ、皆手痛い歓迎を受けていたとのことだった。
なんとも情けない話だと思ったけれど、そのきっかけを作ったのが自分では色々角が立つ。ここは黙っておこう。
リーシアがそうだったように、村からの馬車を騎士、従士総出で並び、でむかえる。
門が開くと村人が脇にたち、馬車が進みでてくる。
出仕希望者はなんと女の子だ。
現状、この砦にはリーシアしかいないことをみてもわかる通り、女子の騎士志望者、従士は少ない。
一番奥の騎士さまが声をかける。
「この子が今年の出仕者か」
「はい、カタリーナといいます」
とは、ジョールグさん。毎年秋になるとこうしてあうことができるけれど、当然言葉を交わすことも、目を合わせることもできない。
少しシワが増えたように見えるけれども、元気そうで何より。
そうか、村から別の女の子が従士に志願する子がでたのか。
「女子とは珍しいな」
と騎士さま。決まりごとなんだなと。
「村の祭りではまだ優勝したことはありませんけれども、大の大人に混じっていい戦いをします」
「なるほど、こう見えて大人に近しい膂力の持ち主というわけか」
「は」
「さて、カタリーナ。
「お前は騎士になろうと出仕したということだが、お前は力だけが自慢なのか。
「その年にしては体は大きいようだが、まだまだ荷が重いように思うが」
「顔を上げて答えなさいカタリーナ」
とはジョールグさん
「は」
跪いていた女の子が顔を上げる。キッと騎士さまを見すえて
「はい。こう見えて力が自慢で、そこらの大人には負けません。言ってはなんですが、そこの女の人程度なら余裕で打ちのめせます」
と、こちらを指差した。
え?
リーシアも驚いたけれども、その場にいた誰もが驚いた。ジョールグさんでさえも。
何しろ従士見習い以外ここにいる全員が、現役騎士一人を引退に追い込んだリーシアの立ち回りを直接みている。
リーシアもまさか自分が名指しで挑戦されるとは思ってなかった。リーシアが村にいる頃には生まれていただろうけど、物心がつく前とかで、知らないのか。
「なるほど、力が強いのか」
と、騎士さまがリーシアの顔を見る。
ああ、これはあれだ、もう怪我人は出すなよという念押しか。はいはい。
「承知しました」
と返事をしておこう。
体格は確かに出仕当時のリーシアよりは身長も高く、体重もありそうだけれども、今のリーシアよりは小柄だ。
まあ確かに、大人相手に立ち回れるのであれば、リーシアが従士をしているということは馬鹿にするかもしれないなぁ・・・。やれやれ。
「それでは少し、腕前を見させていただきます」
「はい、おっしゃる通りに」
なんだかおかしな既視感があるけれども、視点が違う。
ジョールグさんたちが馬車の方まで下がったのが見えた。もう目が「怪我だけはさせないでくれ」って言ってるのがわかる。
久しぶりにジョールグさんと目を合わせた。
軽く頷いておく。いくらなんでも祭りで優勝もできない娘御に遅れは取らないだろう。
案の定、目の前に立ってもこの子が強い、という気は全くしない。
「いいだろう、始めろ」
という、なんとなく気乗りがしない騎士さまの声がかかった。




